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「しっかし、あの柿沢がねぇ……」
中庭から昇降口に向かいながら、恋野くんがにやにやしながら言う。
「失礼だよ、恋野くん。その言い方」
「は? お前だって思っただろ? あんなおっさんみたいなやつが、縁結びの神社で神頼みしてるなんて、笑えるって」
「だからやめなって。自分がそんなふうにバカにされたらいやでしょ?」
「俺はあんなうさん臭い猫に、神頼みなんかしねぇよ」
恋野くんがそう言い捨てて、三年生の下駄箱のほうへ向かった。
それでも恋野くんは、ちゃんと猫神さまの言うことを聞いている。今回のミッションだって、なんだかんだ言いながら、けっこうやる気なんだ。
「で、相手の一年ってどんな子だった?」
靴を履き替えている私に、下駄箱の向こうから恋野くんが聞く。
「うん。かわいい子だったよ」
私は少し離れた二年生の下駄箱から答える。
「ほんとかよ。女ってすぐ『かわいい』とかいうけど、マジでそう思ってんの? ほんとはみんな、自分のほうがかわいいって思ってるんだろ?」
「そんなこと思ってないよ! ほんとにかわいかったんだから!」
そこまで言って、はっと口を閉じる。玄関から外へ出て行く、見覚えのある女の子の姿が目に映ったから。
私はあわてて下駄箱の間をすり抜け、恋野くんのそばへ行く。
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