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「あ、ちょっと待って、恋野くん」
突然桃香ちゃんが駆け出した。バス停に停まっているバスから一人の男の人が降りてくる。私服姿で学生のようだけど、私たちよりずっと大人っぽい人。そしてこの人もなかなか体格がいい。
桃香ちゃんはその男の人に手を振り駆け寄った。男の人もにっこり笑って、二人は並んで歩き始める。
私は足を止め、柿沢先輩を見た。先輩もそこに立ち止まり、じっと桃香ちゃんと男の人の姿を目で追っている。そしてふうっと深く息を吐くと、突然後ろを振り向いた。
「あっ」
先輩と目が合ってしまった。先輩は私を見たあと、隣にいる恋野くんのことを見て眉をひそめる。
「お前、一組の恋野じゃないか。お前んち、こっちじゃないだろ? こんなところでなにしてる?」
恋野くんが「は?」と口を開く。柿沢先輩がそんな恋野くんをじろっとにらんだ。
やばい。なんかわかんないけど、柿沢先輩怒ってる?
「まさか天音さんのこと、追いかけてるんじゃないだろうな?」
「なんで俺が……いや、まぁ、そう言われればそうなんだけど」
「お前っ! まさか天音さんのこと狙ってるのか! 冗談じゃないぞ! お前みたいなちゃらちゃらしたやつに、天音さんは指一本触れさせない!」
恐ろしい形相で柿沢先輩が恋野くんの前に立つ。恋野くんはやっぱり「は?」と口を開く。
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