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「なんでお前にそんなこと言われなきゃなんねぇの? 俺はお前のためにこんなことしてやってんのに」
「お前のためってなんだ? 俺がお前になにを頼んだ? わけわかんないこと言うな!」
「柿沢、お前さ。好きな子を他の男に持ってかれたからって、俺に当たることないんじゃねぇの?」
先輩の顔がかぁっと赤くなる。
恋野くん、また余計なことを……
「恋野っ、てめぇ!」
先輩が恋野くんの胸元をつかんだ。
「け、喧嘩はだめです!」
私は叫ぶ。
「柔道部が活動禁止になってしまいます!」
柿沢先輩がはっと顔色を変え、動きを止めた。恋野くんがそんな先輩の腕をつかんで引き離す。
「紅子っ」
恋野くんが私に目で合図した。私は素早くポケットから糸を取り出し、柿沢先輩の指に巻き付ける。
「な、なにすんだ、あんた!」
先輩が驚いたように、腕を払う。私は怖くなって、咄嗟に口走った。
「すみません! あの、恋野くんは女の子を狙ってなんかいません。私の家がこっちなんで、送ってもらっただけです」
先輩が眉をひそめて私を見る。
「だって……恋野くんは、私の彼氏ですから」
さらに顔をしかめた先輩が、「ふんっ」と私たちから目をそらす。そして「勝手にしろ」と捨て台詞を残し、去って行ってしまった。その指に、赤い糸を揺らしながら。
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