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今日は部活動がない日だからか、生徒たちはにぎやかに校舎を出て行く。そんな人波に逆らうように、私たちは一年生の教室に向かった。そしてまだ教室の中にいた桃香ちゃんを見つけ、廊下へ呼び出す。
「え、昨日バスから降りた人ですか?」
「そう。あの人、あんたの彼氏?」
恋野くんは桃香ちゃんからしたら初対面だというのに、いきなり単刀直入に聞いた。
桃香ちゃんは戸惑うように恋野くんを見ていたけど、素直に答えてくれた。きっと真面目ないい子なんだろう。
「いえ、違います。私の兄です」
「え、お兄さん?」
思わず口に出してしまった。私も恋野くん同様、十分不審者だ。
「はい。いつも学校帰り、あそこのバス停で会うので一緒に帰っています」
「なんだ。そうかぁ」
恋野くんがへらっと笑う。桃香ちゃんはちょっと眉をひそめて、私たちに聞いた。
「でもなんでそんなこと……あの……先輩方はいったい……」
「あ、ごめんなさい。私は二年の花園っていいます。この人は三年生の恋野先輩」
桃香ちゃんが「あっ」と小さく声を上げ、眼鏡の奥の目を見開き、恋野くんを見る。
「恋野先輩って、あの生徒会長の……」
「あ、俺は弟のほうね」
恋野くんは時々新入生に、お兄さんと間違えられるらしい。見た目は全然違うけど、苗字と顔がおんなじだから紛らわしいのだ。
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