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「あっ、花園先輩!」
まずい。バレた。柿沢先輩も私を見て、顔をしかめる。
「あ、えっと、いまそこで、二人の姿が見えたからつい……」
「不良に絡まれていたところを、柿沢先輩に助けていただいたんです」
桃香ちゃんが私に報告してくる。私はなにも知らないふりをして二人に近づく。柿沢先輩はあきらかに私のことを疑っていたけれど。
「そうなの? 大丈夫? 怪我はなかった?」
私はさりげなく先輩の指についている糸をつかみ、その手で桃香ちゃんの手を握る。
「大丈夫です。柿沢先輩が偶然通りかかってくれてよかったです」
そう言ってほっとしたように微笑む桃香ちゃんの指に、私は赤い糸をそっと巻いた。
「いや、偶然なんかじゃないんだよ」
そんな私たちの後ろで先輩がつぶやく。私は静かに桃香ちゃんの手を離す。
「俺、ずっと天音さんのあとをつけてたんだ。毎日ずっと。キモいだろ、こんな男」
桃香ちゃんが驚いた顔で先輩の顔を見る。先輩は大きな手で頭をかいている。
「天音さんに彼氏がいるってわかってからも、ずっと……」
「え、私、彼氏なんかいませんよ」
桃香ちゃんの声に、先輩が顔を上げる。
「いや、でも、毎日バスから降りる男の人……」
「あれは兄です。あっ、もしかしてさっき言ってた恋野先輩のお友だちって……」
私は黙ってうなずいた。桃香ちゃんの顔がまた赤くなる。
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