第5話 不屈の男

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「あっ、花園先輩!」  まずい。バレた。柿沢先輩も私を見て、顔をしかめる。 「あ、えっと、いまそこで、二人の姿が見えたからつい……」 「不良に絡まれていたところを、柿沢先輩に助けていただいたんです」  桃香ちゃんが私に報告してくる。私はなにも知らないふりをして二人に近づく。柿沢先輩はあきらかに私のことを疑っていたけれど。 「そうなの? 大丈夫? 怪我はなかった?」  私はさりげなく先輩の指についている糸をつかみ、その手で桃香ちゃんの手を握る。 「大丈夫です。柿沢先輩が偶然通りかかってくれてよかったです」  そう言ってほっとしたように微笑む桃香ちゃんの指に、私は赤い糸をそっと巻いた。 「いや、偶然なんかじゃないんだよ」  そんな私たちの後ろで先輩がつぶやく。私は静かに桃香ちゃんの手を離す。 「俺、ずっと天音さんのあとをつけてたんだ。毎日ずっと。キモいだろ、こんな男」  桃香ちゃんが驚いた顔で先輩の顔を見る。先輩は大きな手で頭をかいている。 「天音さんに彼氏がいるってわかってからも、ずっと……」 「え、私、彼氏なんかいませんよ」  桃香ちゃんの声に、先輩が顔を上げる。 「いや、でも、毎日バスから降りる男の人……」 「あれは兄です。あっ、もしかしてさっき言ってた恋野先輩のお友だちって……」  私は黙ってうなずいた。桃香ちゃんの顔がまた赤くなる。
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