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「は、恋野がどうしたって? いや、いまはそんなことどうでもいい。兄って……彼氏じゃなかったのか?」
「はい。彼氏ではありません」
桃香ちゃんがきっぱりと先輩に言った。先輩の顔がかすかにゆるむ。
「そうか。そうだったのか……よかった」
先輩はそうつぶやいたあと、すっと背筋を伸ばして桃香ちゃんをまっすぐ見た。いつも柔道部で見せる男らしい顔だ。
「天音桃香さん!」
「は、はい」
「自分は天音さんのことが好きです! 入学式で天音さんを見たときから……一目ぼれでした!」
桃香ちゃんは驚いた顔で先輩を見てから、ふわっと笑顔になって言った。
「実は私も……一年前、柔道をしている兄の応援に行った時、柿沢先輩を見かけて……すごく強そうな方だなぁって……それからずっと先輩のこと……」
先輩の顔が真っ赤になり、その場にへたりと座り込む。
「一年も前から……俺のこと……」
「はい。好きでした」
にっこり笑った桃香ちゃんを見て、先輩が苦笑いをする。
「じゃあ俺と……付き合ってくれますか?」
「はい。もちろんです」
桃香ちゃんが先輩に細い手を差し伸べた。先輩の大きな手がその手を握る。
二人の指と指には、しっかり赤い糸がつながっていた。
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