第5話 不屈の男

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「は、恋野がどうしたって? いや、いまはそんなことどうでもいい。兄って……彼氏じゃなかったのか?」 「はい。彼氏ではありません」  桃香ちゃんがきっぱりと先輩に言った。先輩の顔がかすかにゆるむ。 「そうか。そうだったのか……よかった」  先輩はそうつぶやいたあと、すっと背筋を伸ばして桃香ちゃんをまっすぐ見た。いつも柔道部で見せる男らしい顔だ。 「天音桃香さん!」 「は、はい」 「自分は天音さんのことが好きです! 入学式で天音さんを見たときから……一目ぼれでした!」  桃香ちゃんは驚いた顔で先輩を見てから、ふわっと笑顔になって言った。 「実は私も……一年前、柔道をしている兄の応援に行った時、柿沢先輩を見かけて……すごく強そうな方だなぁって……それからずっと先輩のこと……」  先輩の顔が真っ赤になり、その場にへたりと座り込む。 「一年も前から……俺のこと……」 「はい。好きでした」  にっこり笑った桃香ちゃんを見て、先輩が苦笑いをする。 「じゃあ俺と……付き合ってくれますか?」 「はい。もちろんです」  桃香ちゃんが先輩に細い手を差し伸べた。先輩の大きな手がその手を握る。  二人の指と指には、しっかり赤い糸がつながっていた。
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