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走って神社の鳥居をくぐる。薄暗くなり始めた森の中を駆け抜けると、お社の前の石段に座っている人影が見えた。
「恋野くん!」
私が名前を呼ぶと、恋野くんが顔を上げて私を見た。
「ちゃんと糸、結んできたか?」
私は息を切らしながらうなずく。
「よし。お前一人で大丈夫かって心配してたんだよ」
「恋野くんは……」
全力で走って来たから、まだ息が切れる。
「大丈夫だった?」
「なにが?」
とぼけている恋野くんの前にしゃがみ込む。恋野くんの白いワイシャツは泥だらけだ。
「あの二人を結んだのは私一人の力じゃないよ。恋野くんのおかげだよ」
私は恋野くんの顔を見つめながら言う。
「だって恋野くんが引き止めてくれたんでしょ? あの三人のこと」
「なんのことだかわかんねぇ」
恋野くんはまだとぼけてる。だから私は恋野くんのほっぺをぺちっと軽く叩いてやった。
「いってぇ!」
「怪我してるくせに」
私はカバンの中から絆創膏を取り出して、うっすらと血のにじんでいる頬にぺたっと貼った。
「ありがとう。恋野くん」
恋野くんといるとドキドキして、いつもハラハラさせられる。だけどどうしても放っておけない。これってやっぱり運命の赤い糸のせい?
「でも許すのは今日だけだからね。もう絶対喧嘩しないでよ」
黙って私を見ていた恋野くんが、ふっと笑って答える。
「はいはい。わかりました」
「ちょっと! なにその返事! 私は本気で恋野くんのこと心配して……」
「うっせぇなぁ、お前は」
「うるさいってなによ! 恋野くんっ!」
思わず振り上げた手を、恋野くんにつかまれた。
「暴力はいけないんだろ?」
恋野くんと目が合って、急に恥ずかしくなる。
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