129人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんなのお前が決めることじゃねぇだろ?」
そんな私に恋野くんが言った。
「べつに教師と生徒が結ばれたっていいじゃん。すぐに結婚するわけでもないだろうし、隠れて付き合えばわかんねーって」
「それがよくないって言ってるの! 葉月はいい子なんだから、そんな危険な真似はさせられない!」
「じゃあ葉月って子の願いを叶えてやらないっての?」
「それは……」
葉月は猫神さまにお願いしたんだ。赤星先生と結ばれますようにって。猫神さまの前で手を合わせ、きっと一生懸命に。
「神さまが叶えてやるって決めたんだ。お前が決めたんじゃねぇよ」
私は黙って恋野くんを見る。
「そうだろ? 俺たちはあいつの言われた通りに仕事してればいーんだよ」
そうだよね。神さまが決めたことに、私が反対なんかできるわけない。
「紅子ちゃーん」
そんな私の耳に、かわいらしい声が聞こえてきた。
「葉月……」
「家庭科室行くよー」
渡り廊下から葉月と春菜が手を振っている。
葉月とは二年生になって知り合った。茶色くてふわふわした髪を肩の上で揺らしている、肌が白くて唇がピンク色の、ほんわかしたかわいい子。
ちょっとのんびりしているけど、そこが私とぴったり合って、最近はいつも一緒にいる。
今日はこのあと、奥の校舎にある家庭科室で調理実習だから、中庭からそのまま行くことになっていたんだ。
「じゃあ……」
立ち上がった私に「忘れもん」と恋野くんが言った。
ベンチに座っている恋野くんを見下ろすと、ポケットから赤い糸を取り出し私の手ににぎらせた。
「友だちなら楽勝だろ? 片側結んどいて」
恋野くんはそう言うと、どうでもいいようにベンチに転がって寝てしまった。
最初のコメントを投稿しよう!