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午後、出社した夏夜を迎えたのはサイテーの光景だった。
女子ロッカーへ向かう途中。休憩室のドアが半分、開いていた。先輩の声が漏れている。
誰かと一緒なのだろうか、夏夜はすぐに話しかけたい気持ちをおさえ、入室しないで中の様子を窺うことにした。
半日ぶりの先輩。昨日は、子どもみたいに泣いてしまった。ちょっと恥ずかしい。
でも、軽い気持ちであんなことをしたとは思えない。信じている。やさしく、ほほえんでくれる、はず。
「夏夜? 酒飲ませたら、ちょろかったー」
あははっと乾いた笑いが響いている。
「まじで、喰っちゃったんですか?」
「かわいそー」
……え?
「処女でさー、めんどくさかったよ」
……ええ?
「うっわ。それ、まじ? きつい!」
「あいつ二十三だっけ? 間に受けて『結婚してください』とか、言い出しそう」
……ええ、え?
「一夜の遊びだよ。あんなの、本気になるわけないじゃん!」
あっはっはと広がる嘲笑。
「居酒屋とホテル代でやれるんなら、オレも誘ってみよっかな」
「俺も。でも、重いか」
室内には、先輩のほかにふたり、計三人いるらしい。
会話は続いているけれど、もう聞いていられなかった。
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