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Kaya プロローグ
雨は好き。
傘が、泣いている顔を隠してくれるから。
雨音が、泣き声をかき消してくれるから。
夏夜(かや)は仕事を辞めてきた。もう、行きたくない。
お菓子作りは好きなのに。
親切にしてくれた職場の先輩。憧れていたのに。
昨日、ごはんに誘われてうれしかった。二十三にもなって、片思いばかりで彼氏もできなかった自分、ひとりで舞い上がってしまった。
都内の洋菓子店に勤務している夏夜は、パティシエールのタマゴ。
とはいえ、この春に専門学校を卒業したばかりで失敗も多い。二歳年上の先輩に、たくさん、相談に乗ってもらえた。
次の日は遅番だよねと先輩に勧められこともあり、飲み過ぎてしまい、気がついたらどこかのホテルにいた。
力もないし、体格も違うし、夏夜は抵抗できなかった。きらわれたくなかった、こともある。
……初めて、だった。
もちろん、先輩は驚いてなぐさめてくれた。『悪かった』って、何度も言ってくれた。
朝、起きたらいなかったけど。先輩は早番だったし、仕方なかった。
深い仲になった。今日、会ったら先輩が、きっと言ってくれる。『昨日はごめん。順番、逆になっちゃったけど、付き合おうね』って。
なのに、現実は甘くなかった。
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