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藤田桜子との出会いは、毎年5月に行われる研究室の親睦会という名の飲み会であった。
三年生の桜子は新年度から研究室に加わっていた新メンバーである。
学部生の指導は助教に任せていたので、会うのはこの日が初めてであった。
「 知的で朗らかだけれど笑顔に少し陰がある。」
そんな印象であった。
これは、心理学部に入学してくる学生に多いタイプだ。
自分自身になんらかの問題や不安を抱えており、それを講義や研究を通して解決できたらと思い入学する。
そして、その大部分は壁にぶちあたりなんら解決には至らないと思い知るのだ。
桜子とは、その後も研究室や大学構内ですれ違うときに挨拶をする程度の関係であったが、
夏の終わり頃に論文のデータ解析を手伝いたいと申し出があった。
桜子はまだ具体的な研究テーマを絞りこんではいなかったが、
データ解析を学ぶことは彼女の将来の研究にも有益であるし、こちらも、一人よりは二人いた方が作業効率も上がるため、その申し出を快諾した。
このデータ解析は集めた膨大なデータをひたすらパソコンに入力する作業にほとんどの時間を費やす。
そのため、研究室でデータを入力しながら桜子と二人で過ごす時間が自然と増えた。
二人で休憩しながら私のこだわりの珈琲を飲む。
二人で入力作業が終わると、私が行きつけのレストランで食事を一緒にする。
時にはワインでほろ酔いになり、お互いにいつもより油断した姿を見せることもあった。
そして、私はいつしか桜子に恋心を抱くようになった。
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