5人が本棚に入れています
本棚に追加
時刻は23時。
大学の敷地は広く、座間は講義棟や研究棟があるエリアから奥へ奥へと歩いていた。
すれ違う人は誰もいない。
野球場、球技場、陸上トラックなどすでに照明が落とされた体育会施設を過ぎると、突き当たりに小高い丘になっている芝生広場があった。
付近には最小限の照明しかなく、かなり暗い。
星空の観測にはうってつけの場所である。
「 先生、こっちです!」
声は丘の上方から聞こえたが、姿は闇に包まれて見えなかった。
声を頼りに丘を登ると頂上付近に桜子が待っていた。
既にレジャーシートの上に毛布を敷き、さらに肌掛け用の毛布も用意しているようだった。
「 これは、準備万端だね。」
優しく低い声でそう話しかけた。
「 はい、先生に風邪をひかれたら困りますからね。ホットコーヒーも用意してありますよ。
先生程、上手に淹れられないですけれど。」
桜子の声はとても肌触りが良いタオルのようだ。
ずっと聞いていたくなる。
最初のコメントを投稿しよう!