3.ペロ産まれる

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3.ペロ産まれる

 ペロの一生は、若い夫婦の生活と共にここから始まった。それまで彼の世界はペットショップの狭いケージの中だけであり、人に触られるにしても、それは、愛情を注ぐ対象としてではなく商品としてでしかなかった。  ここでは、すべてが違う。世界が信じられないくらいに広く、跳んでも、走り回っても壁にぶつかることはない。その代わりに見たこともない形や色をしたものに何度もぶつかり、そのたびにこれは一体なんだろう? と気になってしょうがない。  いつも両隣のケージに居たほかの子供の姿はなく、上からも下からも、どこからも子供の声は聞こえてこない。この大きな世界に居る子供は自分だけで、あとは大人が二人。  その大人は、昨日まで自分のことを世話していた大人とはまるっきり違う。ずっと話しかけて来てくれるし、さわってくれる。そのさわり方は今までされた事のない心地良いものだった。  この二人は、ボクのことを喜ばせたくてたまらないんだ。  これが、産まれるって言うことなんだ。  ペロはそう思った。
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