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私と20も年が違う異母兄弟が生まれた。 父忠実の許しを得て義母の館を訪れる。 乳母に抱かれて部屋に入ってきた弟は、私がそっと抱くと火がついたような大声で泣き出して私を困惑させた。 「可愛らしいお声ですこと」 乳母が優しく助け舟をくれる。生みの親の義母もにこにこと笑って何も動じない。 「私にも娘がいるのですが、抱き方がおかしいのでしょうか」 あわてて乳母に渡すと泣き声が止まり、また眠ってしまった。 「この子も忠通さまの偉大さがわかるようですね」 「まだ首をすわっていない赤児です。何もわからないでしょう」 焦る私を見ながら生みの母がじっと赤児を見ている。 御簾や几帳を隔てていない、直接顔を合わせている非常識な状態で女性と対しているため、できるだけ義母と直視しないように気をつけていたが、真剣に声をかけられてつい顔を見てしまいあわててうつむいた。 「忠通さま」 「はい?」 「私が死んだらこの子をお願いします」 「何を義母上、このように可愛らしい子の成長を一緒に見ていきましょう」 私が聞いた、義母上の最後の言葉だった。 まもなくして義母上が亡くなったことを知らされ、幼児でまだ何もわからない弟が乳母に手をひかれ葬儀に参列している。 忌みは避ける貴族社会にいて、破天荒な父忠実の悲しみの表れだったのだろうか。 「忠通」 「はい」 「この子を養子にしてくれないか」 氏の長者である父の命令は絶対だったが、私は違う意味で逆らうことはしなかった。 愛らしい弟が手に入ったのだから。
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