ヤンキー彼氏の大きすぎる偏愛

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 もう少し時間を掛けて……と考えていた八戸に突然の試練が訪れたのは、その十日後だった。  平日のど真ん中の水曜日。繁忙期ということもあり、八戸が帰宅したのは0時を過ぎていた。学生時代から使っているワンルームで一人晩餐をしていた。コンビニのハンバーグ弁当に缶ビールという不健康の代表格のような夕飯だが、自炊をする気力も時間もないので仕方がない。弁当を半分ほど食べる頃にはビールを飲み干してしまい、二本目を冷蔵庫から出そうかと腰を上げた時、スマホが鳴り始めた。  こんな時間にスマホが鳴るのは珍しい。画面に表示されているのは「犬飼組 星野くん」という文字。睦である。  真夜中の着信音に一抹の不安を抱きながら、八戸は電話に出た。 「どうしたの?」 「あの八戸さん……今、いいですか?」  いつもより控えめな彼の声がなんだか深刻そうに聞こえた。 「何かあった?」 「その、実は家で喧嘩して……」 「喧嘩ってどうしたの」 「親とつかみ合いの喧嘩になって、出ていけって言われて……」  彼の背後がざわついている。おそらく外だろう。こんな時間に子供を追い出す親に苛立ちを覚え、八戸は少し硬い口調になった。 「今、どこにいるの」 「駅前のマック」 「迎えに行くよ」 「え? ああ、いいですよ。ちょっと声聞きたかっただけなんで。ほら、家だと電話できないし」  電話先から戸惑う声が聞こえる。きっと彼にとっては家を追い出されるのはよくある日常なんだろう。普段は甘えてくるくせにこんな時に限って遠慮する彼に八戸はさらに苛立った。 「こんな時間だし、危ないよ」 「大丈夫っすよ。俺。盗まれるほど金持ってないし、変なおじさんに声かけられるようなこともないし」 「かけられたらどうするんだよ。ただでさえ、君は性的なのに!」  一瞬、空白の間が挟まったあと、耳元で爆笑する声が響いた。睦はひとしきり笑ったあともまだ笑いを引きずっている。 「今の、もっかい言ってもらってもいいすか? 性的って……!」 「睦くん!」  たしなめるように言うと、睦はようやく笑いを引っ込めたが、それでもまだどこか声が震えている。 「八戸さん、明日も仕事でしょ。迎えはいいんで、ちょっとだけ電話付き合ってください」  八戸は電話をイヤホンに切り変えると、彼のいる店を探すため、パソコンを開いた。  十分程、世間話をしながら目星をつける。彼の家の場所から考えると店はここで間違いないだろう。 「そろそろ電話切ってもいいかな」 「え、あ、はい」 「補導されるかもしれないから、あんまりうろちょろしちゃだめだよ」 「わかってますよ……。すんません、夜中に電話して」  拗ねた声とともに電話は向こうから切られた。きっと短い電話を不満に思ったのに違いない。  八戸は切られた電話画面から、すぐに馴染みのタクシー会社に電話をかけた。呼び出し音を聞きながら、八戸は一人毒づいた。 「本当に世話のかかる子だな」
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