ヤンキー彼氏の大きすぎる偏愛

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 タクシーに店名を告げて二十分ほど走らせたところで、目的地に着いた。二十四時間営業のファストフード店は、真夜中にも関わらず、ぽつぽつと客がいた。浮浪者のような者もいれば、睦と同じぐらいの十代らしき若者もいる。明らかな女子高生が二人、深夜とは思えないほどの元気さで会話に花を咲かせている。  八戸の目には、いかにも行き場を失った者たちのたまり場のように見えて思わず眉をしかめた。  ちょうど彼女たちのテーブルの向かいのカウンターに見慣れた背中があった。仕事に着てくるのと同じグレイのブルゾンを着ている。……睦だ。彼はカウンターに突っ伏すようにして眠っていた。風呂上がりなのだろうか、近づくとシャンプーのいい匂いがした。 (む……むつきゅん、髪下ろしてる~~っ)  普段、一つに結ばれた金髪が無造作に頬の上に散らばっている。  イライラしていた気持ちが吹き飛び、思わず顔が緩んでしまう。あまりの可愛さに写真を撮ろうとポケットを弄っていると、先程の女子高生に怪訝な視線を向けられた。変質者と糾弾される前に八戸は慌てて眠る彼に声をかる。 「睦くん」  声を掛けても全く起きる気配はなく、身体を軽く揺さぶってようやくその瞼が重たそうに開いた。まだ焦点の定まらない様子だったが、八戸を認めた途端、驚いたように身を起こした。 「え……なんで……」 「迎えに来た。表にタクシー待たせてるから帰ろう」 「いいって言ったのに」  寝起きが悪いのか、それともまださっきの電話を怒ってるのか、彼は酷く不機嫌に見えた。八戸は遠慮がちに首を傾げた。 「迷惑だった?」 「だってタクシーって高いじゃないですか。わざわざそんなことしなくても……」 「でももう来ちゃったから。ほら立って」  困惑しているものの、嫌がってはいない様子にほっとする。促すとのっそりとした動きで荷物を手に立ち上がった。上下ジャージに膨らんだ斜め掛けのカバンが一つ。どう見ても家出少年だ。  まだ眠そうな彼を連れて歩き出すと、後ろから服の裾を掴んでくる。 (むつきゅん、そういうところ卑怯!可愛い!好き!)  叫びたくなる気持ちを必死に抑え、平静を装ったが、開く自動ドアに映る己の顔はだらしなく緩んでいた。
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