ヤンキー彼氏の大きすぎる偏愛

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 睦はというとタクシーに乗り込んだ途端、メーターの金額を見て、目を見開いて固まっている。走り出してしばらくすると、おずおずと口を開いた。 「あの……八戸さん。半額出したいんですけど、今給料前で金無くて……」  視線を伏せる彼の頭をくしゃりと撫でる。 「こういう時は年上に甘えなさいって」 「……すみません」 「ありがとうって言ってほしいな」 「ありがとう、ございます……」  酔いの勢いもあって、その可愛らしさに思わず抱きしめてしまった。 「はっ……? 八戸さん……っ」  驚いた様子の彼の頭に手を回し、細い髪を弄ぶように撫で回す。ああ、永遠にヨシヨシしていたい。 「犬じゃないすよ、俺」 「嫌?」 「嬉しいですけど……、酔ってるなぁと思って」 「ビール一杯で酔わないよ」  そう言いながらも睦の身体を離さなかった。酔っているし浮かれている。そのテンションの高さが八戸を大胆にさせていた。  しかし、不意に鳴った睦のスマホが現実に引き戻した。彼は身体を離してスマホの画面を見て舌打ちをした。そして険しい表情のまま電話を取る。 「あー……うん、今日帰んない。いや、アヤトの家じゃない。あいつ今、家族と旅行中。は? 行先? 知らねぇよ。……うん、うん」  ぶっきらぼうに受け答えする相手はきっと家族だろう。追い出されたというので心配したが、この様子なら仲直りできそうだと少し安心した。 「今? えーと……」  淀みなく受け答えしていた彼の返答が一瞬止まった。窓の外にやっていた視線がこちらに向けられる。 (あ……、親に挨拶とか?)  浮かれていた気持ちが一気に吹き飛び、背筋が伸びた。緊張で引きつってしまった顔に気づいたのか、睦はふいと視線をそらすと電話を続けた。 「会社の先輩が迎えに来てくれて、その人のとこ泊まるから。……うん、大丈夫」  その後、数分のやり取りのあと、電話は切られた。緊張の糸が切れて、八戸は息を吐いた。 「ごめん、八戸さん」 「え、なにが?」 「……会社の先輩って嘘ついて」  どこか思いつめたような横顔に八戸の胸が痛んだ。八戸は彼が嘘をついてくれたことにほっとしていた。まだ付き合ったばかりで、家族に紹介するようなタイミングではないと思っていたからだ。しかし睦の横顔はどこか思いつめた様子だった。嘘をついてしまった自分を恥じているように見えた。 「八戸さんのこと、いつかちゃんと紹介するんで」 「う……うん」  シートの上に置いていた手を力強く握られた。八戸はその真っ直ぐすぎる彼の気持ちに少し気後れしながらも、握り返した。
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