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第三話 ぜんぶ
「かなりん…。りーちゃんとガオちゃん…どこ行ったんだろうね…。」
「ガオちゃん…?ああ、葵ちゃんの事…?」
すぐにあだ名で呼ぶ癖がついている芹香を苦笑いで見つめる和香奈。しかし、何もわからないようで、和香奈は長髪をくりくりといじっている。すると芹香が何かを思いついたようで、手帳をパラパラとめくりながら、スマホを取り出した。和香奈がその光景をキョトンと首を傾げながら見守る。
とあるページでパシっとページを止める。そのページには、理沙都達のクラス名簿、そして非常用連絡先が記載されていた。それを見た和香奈は目を細め、
「理沙都ちゃんの連絡先なら…芹香ちゃんは持ってたはずよね…?電話でもするの?」
とたずねた。芹香は「ふっふーん」と笑い、人差し指を立てて左右にちっちっちっと振った。おそらく違うのだろう。和香奈がそう思うと、芹香が話し出した。
「もちろん私はりーちゃんの連絡先も、ガオちゃんの連絡先も知ってるよ〜?でもあんな状態のりーちゃんが電話に出ると思う〜?私だったら出ないなぁ。だからこそ。あの人の助けを借りるのさ?そう。りーちゃんの親友さんにね〜!」
といい、クラス名簿のある名前の横で指を止めた。そこには、『川井楓』という名前と、電話番号が書かれていた。和香奈はハッとし、すぐに芹香の手首を掴んだ。芹香はキョトンとする。
「やめておいた方がいいわ…。だってあの子、一回ギターをやめて、もうやらないって決めたって言ってたじゃないの…!だめに決まって…」
「かなりん。私はね。かえちゃんをバンドのメンバーに入れたかったんだ。もちろん、りーちゃんの承諾を得て。だよ?そのためには、もう一度ギターを好きになってもらわなきゃいけない。最初からだめだって決めつけるのは…その人の心に自分から蓋をしているのと同じだと私は思うんだ。多分…かえちゃんは、いじめられていた時の蓋を未だに開けられないままでいるから、苦しいんだと思うの。だからさ。私が蓋を開けてあげたいんだ。それと…本当の親友なら、りーちゃんの事、ほっとかないと思うからさ。お願い。」
普段の芹香とは違う何かを感じた和香奈は、静かに芹香の手首から手をを離した。芹香が「ありがとう〜」といつもの顔で微笑む。スマホでダイヤルをすれば、この前学校で聞いた、あのクールな声が「もしもし。川井ですけど。」と答えた。芹香はコホンと一息つけば、今までの事情を話した。理沙都が練習を投げ出した事。葵が怒って飛び出した事。全てを明確に話した。そして、楓にもう一度ギターを弾いてみないかと聞いた。しかし楓の解答は変わらず、
「あの…。やらないって決めてるんです…。」
のままだった。芹香は必死に話した。和香奈が「もうやめましょうよ…」と口を挟もうとしたが、「かえちゃんが蓋を開いてくれるまで…やめない。」と、言う事を聞かなかった。
「りーちゃんとかえちゃんは親友なんだよね…?りーちゃんからよく聞くよ…?だからさ、お願い。もう一回……」
痺れを切らしたのか、ついに楓の声に怒りが込もり始めた。
「どうしてそこまで私にギターを弾いてほしいんですか…!!ギターを弾いたところで、またいじめられるに決まってるんですよ!!理沙都は…親友だけど…信用してるけど……私はもうやらないって決めてるの………!」
「”決まってる”。”もう決めた”。か。論理的な決めつけは、今すぐやめたほうがいい。」
芹香の声色が変わった。芹香の顔はうつむいていて見えない。しかし、声はしっかりと響いている。電話越しに「えっ…」と楓の戸惑う声が聞こえた。
「私はね。最初から無理だとか言う事が、一番苦手なのね。そんな事はただの言い訳でしょ?それが私は嫌なの。」
いつものほのぼのとした芹香とは一変、今日の芹香は何か違う。和香奈は恐怖に身震いした。
「理沙都がどれだけ川井さんの事を心配してるか、わかってるの?ライブハウスで練習する度に『楓がいればもっといい音色になるんだけどな…。』『楓の音色はいつも綺麗なんだよ。』って褒めたり、心配したりしてたんだよ?その笑顔を…理沙都の笑顔を、私達よりもずっと前から見てるのにも関わらず……!!」
芹香がぐっと拳を握りしめ、机を思い切り叩いた。その瞳には、涙が溜まっている。
「その笑顔を守るのが親友ってもんでしょうが!!あなた、それでも理沙都の事をよく信用してるって言えるわね!!親友だって証明してみてよ……!!一度……もう一度…っ…!!理沙都の気持ちを考えてみなさいよっ…!!!」
泣きながら言い放ち、芹香はブツリと電話を切った。それまでの流れを見ていた和香奈の顔がだんだん心配の色に染まった。ライブハウスの部屋は、静寂に包み込まれるのだった。
楓は声が出なくなっていた。今までの思い出が、脳裏に蘇る。
『す…すごいね、楓ちゃん、ギター弾けるんだ。』
『楓ちゃん!またギターの音色、聞かせてよ。』
『楓…ちゃん?ギターは…どうしたの…?』
あの理沙都の悲しそうな顔。多分私はそれ以上に暗く、沈んだ顔だったのだろう。もうあの顔は見たくない。だからギターをやめていたけど…そんなに心配されているとは思わなかった。今は…その時の私よりも暗く沈んだ顔なのかもしれない…。悲しそうな顔を見たくないからギターをやめていたのに、ギターをやめた事によって、理沙都が苦しんでいたとするなら…。
私ってサイテーだね…。
親友の気持ちもわからないなんて。楓の頬を一筋の涙が流れ落ちた。
離れるなんて…辛すぎるよね。理沙都。
楓は、立てかけてあったギターケースを拾い上げれば、家を出ていった。目指すは…理沙都との思い出の場所。あそこに必ず理沙都はいる。そんな感じがした。
一方、芹香は悔しがっていた。自分で自分を制御できなかったこと。蓋を開けるどころか、無理やり剥がすような形になってしまったこと。後悔の全てが涙というものになって、頬を伝い、流れ落ちる。すぐに涙を拭けば、
「かなりん…。私…開けることができてたのかな…。かえちゃんの蓋…。」
とか細い声でたずねた。和香奈がハッと我にかえれば、赤い顔で微笑む芹香の姿。泣いていたため、目には涙がまだ溜まっている。
「やっぱり…芹香ちゃんには敵わないよ…。うん…!開けれてたと思うわ…!」
肩をぽんっと叩く和香奈。しかし芹香の顔は暗いままだった。あまりの状況に、和香奈は声もかけることができなかった。
すると突然、芹香の握りしめたスマホが振動し始めた。涙で潤んでよく見えないが、スマホの画面を見つめた。すると、芹香の顔が照らされたようにだんだん明るくなった。和香奈も芹香のスマホを除き込み、画面に映されている文字を目で追った。芹香は和香奈の顔を見れば、泣いていたせいか頬を赤くした笑顔でコクリと頷いて、片付けを急いでし始めた。
机の上に置かれた芹香のスマホが光り輝いている。そこには地図の添付ファイルと、数文字のメールが送られていた。
『理沙都は私との思い出の場所にいます。私もその場所に向かいます。目を覚まさせてくれてありがとう。丸西 芹香さん。』
爽やかな風。心地いい…というより、少し寒いくらいだ。潮の匂い。カモメの鳴き声。ここは…海。海…というより、海の上の崖だ。理沙都のお気に入りの場所。思い出の場所。それがここなのだ。
あの日、夕焼けの元で聞かせてくれたあの音色。誇らしげに海に語りかけていたあの姿。笑顔で頷きあったあの日々。私の親友の美しい姿。私の心に音色を響かせてくれた。
初めてギターに触れた手はぎこちなくて、うまく弾けなかった。そんなときに私に炎をつけてくれた、あの凛々しい姿。怖かったけど、あれが彼女なりの応援の仕方だったのかもしれない。その堂々とした姿が、私の心を奮い立たせてくれた。
「2人に感謝と敬意を込めて…この詩を。自分の音色を………。」
ギターを抱きしめ、ふと思いついたフレーズを口ずさむ。それに合わせ、ギターの弦を弾く。不完全なメロディー。だが、歌にはなっている。
「♪一番心配していてくれたのは君だったんだね」
慣れない手つきでギターを弾く。音色を奏でる。
「♪今は下手くそでもいい いつか花開くときがくるから そう教えてくれたのは 他の誰でもないの」
その頃、楓は走っていた。夕暮れの日差しが差し込む、ビルの間を縫うように走る。今まで背負うことを拒んでいたギターケースを背負って、走る。あそこにあなたがいるなら、今すぐに会って言いたいことがある。言いたいことが山ほどある。楓の頭の中ををぐるぐると駆け回る、不思議な感触。途中、転びそうになりながらも、『思い出』に向かって走っていた。
「♪迷惑かけた私でごめんね ダメな私でごめんね でもキミの事が好きなんだ キミの奏でるその音色が」
理沙都の頬を涙が伝う。それでも、震える声で、夕日に歌い続けた。
「♪興味がなくて 拒んでも 自由じゃなくて 嫌がっても また 会いに行くよ 何度だって キミの音色が大好きだから」
背中を智美に見送られ、芹香と和香奈も、ライブハウスを飛び出した。普段運動があまり得意ではない和香奈も、一生懸命走った。理沙都の思い出の場所へ向かって、まっすぐ。
「♪キミが認めてくれるまで この気持ちは変わらないよ 会って言いたいんだ ありがとうって」
楓が思い出の場所に着いて、大声で理沙都の名前を呼ぶ。しかし理沙都は振り向かず、歌い続ける。すぅと息を吸い込めば、最後の一声。今までよりも澄んだ声で。
「♪キミの事が…大好きだから…」
ギターが鳴り終われば、理沙都は肩の力を抜いた。理沙都がゆっくり振り返れば、楓が目を丸くして立っていた。「楓…ちゃん……」と目に涙を浮かべながら、震える声で名前を呼んだ。
楓は背負っていたギターケースの紐をぐっと握り締めると、理沙都のいる場所まで走り出した。楓が走り出すのと同時に理沙都も駆け出した。そして、2人は抱き合った。理沙都が飛びついたため、2人はその場でくるりと回転する。お互いに涙を流した。心の奥底から湧きてできた気持ちが、全て涙という形になって、流れ出した。
「理沙都………ごめん……。私、理沙都の悲しそうな顔を見たくなかったから、今までギターは弾かないようにしてた………でも…それが逆にあなたに悲しみの感情を植え付けてしまっていたなんて…わからなかったの……。ほんとに…私ってサイテーだよね………。」
すると抱き合っていた手を一度離し、理沙都は赤い顔で微笑んだ。
「楓ちゃん…。私、ずっと待ってた。楓ちゃんとセッション……ううん、一緒にバンドできたらな…ってずっと思ってた。でも…楓ちゃんは、来てくれた。この『思い出の場所』に。しかも…持ってきてくれたんだね。そのギター。私は嬉しいよ。」
そう言って、理沙都は楓の背負っているギターケースを指差した。相変わらず顔は赤いままだ。楓は少し懐かしげにギターケースを見つめれば、何かを決めたように頷いた。そして理沙都の手を取れば、ギュッと握る。
「理沙都。私…バンドに入る。だからさ……ここでセッション…してくれるかな…。」
思いもよらない言葉に、理沙都は少し驚いた。今まで憧れていた”川井楓”という存在に、セッションを頼まれたからだ。しかも、バンドに入ってくれると言ってくれた。理沙都はギターのピックを持ち直せば、大きく頷いた。
楓のギターは新品だった。前のモデルとは色違いで、ピックも変えたようだ。今までよりも楓の姿が輝いて見える。夕日の光が反射し、キラキラと2人を照らし出した。
「えっ………と。何の曲にする…?っていっても…持ち歌ない…か。」
あはは…。と苦笑いする楓。すると横で理沙都がギターを弾き始めた。楓はハッとし、「ちょ…そのメロディって…」と理沙都の顔を見た。理沙都は恥ずかしそうにエヘヘと頬をかけば、楓に向き直った。
「このメロディってさ。いっつも夕日に向かって弾いてたよね。なんだか覚えちゃったみたいで。弾いてみたんだけど……。」
「それなら…その通りに歌ってみて。私はそれに合わせるから。」
そう言って楓はギターを構えた。理沙都は少し疑問に思いながらも、弾き語りをした。すると、楓は綺麗にハモリを入れたのだ。お互いに顔を見合わせ、夕日に向かって歌った。昔から変わらないこの場所からの景色は、どこか懐かしく、儚い夢のようなものだった。
夕日も沈みかけた頃、後ろから、タッタッと軽快な足音が聞こえてきた。2人が後ろを振り向けば、そこには大きく手を振る芹香と、後ろからお婆ちゃんのような前傾姿勢で歩く和香奈の姿が見えた。
「あっ、いたぁ!りーちゃん!!かえちゃーん!!」
芹香がダーッと駆け寄れば、理沙都に抱きついた。あまりの勢いに耐えられなかったのか、そのまま楓のいる方向に倒れかかってしまった。
「うわあああん!!りーちゃん!!りーちゃんが無事でよかったよぅ!!私ってばてっきり投げ出して、ギターをやめちゃうんじゃないかって思っちゃってたんだよぅ…ッぐす……。」
ぐずる芹香を理沙都は「だ…大丈夫だから…ね…」と重さに耐えながら慰める。芹香と理沙都の体を支えている楓は「ま……丸西さん……重い………。」と震える声で言った。当の芹香はゆっくりと手を離せば、涙を拭いた。お婆ちゃんのようだった和香奈も、ようやく3人のいる場所までたどり着いたようだ。普段運動が得意ではなく、全速力で走るという行動をするのが久しぶりだったようで、息を切らし、ゼェゼェと呼吸をしている。
「にしても…かえちゃん、さっきはごめんね。すごくキツい言い方になっちゃって....。」
頭を掻きながら芹香がペコッとお辞儀をする。楓は軽く首を振れば、ギターを持ち直した。
「私は…逆に感謝してる。私を底なしの沼から引っ張り出してくれたから…。だからこそ…ここにいる。ここに……みんなと…いる。だから…ありがとう。」
優しく微笑む楓。芹香も自然と笑顔になる。和香奈は相変わらず、膝に手をついて下を向いている。理沙都は周りを見渡した。久しぶりの場所を堪能したいらしい。すると、楓が一息ついた。目を閉じ、すぅと息を吸い込めば、近くにある木に向け、声を出した。
「そこにいるのはわかってるのよ。オオカミさん。そろそろ出てきたらどうなの。」
理沙都はキョトンと首をかしげる。芹香は「えっ…オオカミ!?え!?」と挙動不審になった。和香奈は目を細め、「あら……もしかして…」と顔を上げた。すると、木の後ろから青髪に黄色のメッシュ。見た事のある、あの姿の人影が現れた。そう。葵である。普段と変わらず、肩にドラムスティックをかけ、ゆっくりと近づいてくる。見た事のある光景に、理沙都は思わず身震いしてしまい、思わず目を瞑ってしまった。
葵と理沙都の距離はどんどん近づき、ついにすぐ前となった。何を言われるかわからず、ただ恐怖に堪らえようと理沙都は目を瞑っていたが、葵は理沙都を見れば、「なんも悪い事はしねぇよ。だから…さ。」と威勢のいい声ではなく、優しい声で話した。理沙都が恐る恐る目を開けると、そこには葵の手のひらがあった。理沙都がキョトンとすると、葵は反対方向を向きながら顔を赤らめ、理沙都を睨みつけた。
「さっきは…ごめんな。まぁ……お前の音色が…アレだよ……すごく…響いたんだ。俺の心も…燃えたっていうか…なんて言うか……その………す………す……きなんだ……。あっ…いや、恋愛系じゃねぇぞ!!ちげぇからな…!?」
真っ赤な顔で言っていたため、理沙都の怯えも解かれ、クスクスと笑い出した。他の3人も笑っている。芹香なんて、腹を抱えていた。
「えーっと…。って事は、バンドに入ってくれるって事………?」
と、理沙都が恐る恐る聞けば、葵はいつもの顔で理沙都を見れば、
「バンドとやらにも入ってやるよ…。ただし。俺は俺の音色を…ってこれ前にも言ったな。はは。」
ニッと、笑顔で話した。すると夕日のある方向を向けば、顔だけ理沙都たちに見せ、微笑んだ。
「俺だけの音色より…理沙都たちと一緒に奏でる音色の方が、楽しく叩けるって、わかった気がすんだ。だから、俺は正式にバンドに入ろうと思う。いいか?理沙都。」
そう言って、ドラムのスティックを理沙都の目の前に、ビシッと振り下ろす。理沙都は一瞬ビビったが、すぐに笑顔になって大きく頷いた。それを見ていた芹香と和香奈はお互いに顔を見合わせれば、声を揃え、
「「バンドメンバー、全員揃ったね!!」」
と笑顔で理沙都に話した。理沙都はプチパニックを起こし、「はわ…揃っちゃった……!」と、あちこちをちょこちょこと駆け回った。楓が駆け回る理沙都の肩を持てば、みんなに向き合った。
「改めまして。私は川井楓。それで?オオカミさんは挨拶したの?」
「ああ…俺か…。島川葵だ。ドラムは…趣味で始め…」
「ねぇねぇガオちゃん、どーしてここに理沙都ちゃん達がいるってわかったの〜??」
葵の話の途中で芹香が乱入した。葵が「おい…テメェ………。」と芹香を睨む。
「あー……アレだ。ライブハウスに戻って、智美さんから聞いたんだ。」
葵はライブハウスから飛び出したあと、理沙都達が心配で、ライブハウスに戻ったところ、智美から事情を聞き、ここまでたどり着いたようだ。先に楓がいたため、ずっと木の後ろに隠れていたらしい。
「あー…あとこれ。この情報もあるぞ。」
そう言って葵はスマホをみんなに見せた。スマホの画面にはSNSのタイムラインが表示されており、そこにはギターを弾き語りする、理沙都の後ろ姿が映し出されていた。誰かが撮影していたのだろう。動画はそこそこ伸びており、コメントも溢れかえっていた。中には「これって同じ学校の子だよ!」「え、ナイロアのトーカの妹さんじゃない?」というコメントも存在している。理沙都と芹香は目を輝かせた。和香奈は自分のスマホでもその記事を確認している。楓はぐっと拳を握れば、キリッとみんなを見た。
「波に乗るなら今だよ…!!葵!デビューライブはいつできるか調べて!それと芹香、和香奈、RockRiverの電話番号、スケジュールを調べて!!理沙都は、RockRiverのホームページで、デビューライブ予約をお願い!!」
楓がバッと手を広げる。かなり燃えているようだ。芹香は電話をかけながら、楓にぐっと親指を立てた。どうやら日時はOKらしい。
「あら。どうやら私達以外にももう1バンドデビューするらしいわよ?バンド名は……”Nostalgic Tone”だって。」
スケジュール表を見ながら和香奈が話す。理沙都は一人、悩んでいた。バンド名が決まっていない事が判明したからだ。デビューライブ予約には、バンド名が必要だということを忘れていたのだ。理沙都は目を閉じ、深呼吸をした。みんな、それぞれ個性がある。個性は様々。元気。静か。クール。気が強い。優しい。それを、最大限に活かせる言葉…。
音色を…奏でる…。
自分たちの音色を…咲かせる…。
理沙都は熱心にバンド名を打っていけば、確定ボタンを押した。理沙都のスマホには、『予約が完了しました』の文字が表示されている。理沙都はホッと胸を撫で下ろした。他の4人も、それぞれ作業が終わったようだ。
「ところで、りーちゃん。バンド名は何にしたの??」
「ダサいやつだったら承知しねぇぞ。」
「まあまあ、聞いてあげましょう?」
「理沙都。聞かせて?」
4人が理沙都へ微笑みかけた。理沙都は一息おいて、笑顔で話した。
「私達のバンド名は…Melody Flower。みんなの個性があってこその、音色を奏でられる。その個性を最大限に活かして、自分たちの音色を咲かせていく…。いつか、全部できたらなって。大輪の花を咲かせられたらな……って。そんな意味を込めたの。だめ……かな…?」
オロオロと話す理沙都。すると葵が背中をドンッと叩いた。
「いい名前じゃねぇか!!俺は気に入ったぜ?Melody Flower!俺だって俺自身の音色と、みんなの音色とを合わせられたらいいなって…思ってたんだ。」
すると、葵はその手を理沙都の前に伸ばす。そこへ芹香が手を重ねた。
「そうだねぇ。私も、みんなと花を咲かせたい!音色っていうお花を〜!」
理沙都がみんなを見回す。さらに和香奈も手を添えた。
「ええ。仲間がいるっていい事よ。私もこのバンドで、自分の音色を見つけてみたい。」
和香奈がウィンクをすれば、楓も手を重ねた。
「私は…今まで拒んでいたものを取り戻したい。友情っていう…花をね。だから…このバンドで、全部頑張りたいと思った。」
楓が理沙都を見て微笑めば、理沙都はあたふたして手を添えた。みんなが、それぞれの花を咲かせるために集まったバンド。それがMelody Flower。いつか、大輪の花を咲かせたい。理沙都は心の中でそう決心すれば、いつもより気合いの入った目でみんなを見つめた。
「じゃ……じゃあ。円陣だね。実は、掛け声も決めておいたんだ…えへ…。」
照れ臭そうにみんなに掛け声を教えれば、手に力を込めた。今までよりも、ずっと。もっと。頼れる仲間がいる。そんな仲間の温もりが伝わってくる。
理沙都達は大きく息を吸い込み、高らかに声を上げた。
「Melody Flower!!!」
「「「「「GO!! BLOOM!!」」」」」
♪次回予告♪
今回の担当は私。和香奈で〜す。理沙都ちゃん、戻ってきてくれてほんとに良かったよ…。葵ちゃんも改心したみたいだし!!これから五人で助け合って、頑張っていこう!えーっと、Melody Flowerだっけ!いいバンド名だわ!!というか…もうライバルが出てきたわね…!でも結構親しみやすいライバルよねぇ…。ここから先。どうなるのかしら。
次回「目指している世界」
次回も見てね〜!
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