第一章 バンドって…

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第四話 目指している世界 「この歌詞のほうがいいと思うよ。私はね。ほら。”咲き誇れ”を入れたいって言ってたじゃん。」 「ああ……そういえばそうだったね…。じゃあプランBにAのここの部分と、この歌詞を抜き取れば問題なさそう…かな。」 教室でノートを開き、鼻にペンを乗せている理沙都。むーん…と悩んでいる。体を反対方向に向け、理沙都に向き合って椅子に座っている楓は、マーカーペンで訂正をしているようだ。すると、ガラガラッとドアがあき、そこには葵が立っていた。いつも通り…ではなく、ちゃんと制服を着こなしているが、威勢はいつも通りである。 「理沙都!楓!メロフラ集合だ!!もちろん、いつもの階段の踊り場な!」 ビシッと指を指せば、葵はスタスタと歩いていった。理沙都と楓はメモをまとめれば、すぐに階段へと向かった。 「…という事で、デビューライブまで…1週間をきりました。新曲…というか、デビュー曲なんだけど、作曲は芹香ちゃんがやってくれるらしいけど……題名が未定なんだよね…。何かいい案はあるかな…?」 シャープペンをくるくると回している理沙都。芹香は壁にもたれかかり、「題名かぁ〜…」と唸る。和香奈は顎に手を当てて考えた。葵は「もうテキトーでいいと思うけどな。」と頭の後ろで手を組み、目を閉じている。 「花の名前入れる?それとも英語?」 楓が腰に手を当てて前かがみになる。理沙都は頭を掻きながら考えた。すると和香奈が指をパチンと鳴らした。 「花言葉とかどうかしら。それに合った名前を考えてみましょ?」 4人は一斉に顔を上げれば、目を輝かせた。すると、後ろからスタスタと優雅に歩いてくる足音と、声が聞こえた。 「花言葉……か。実にいい案だ…。しかし…それで私達に対抗しようとは……いい根性だね。褒めてあげるよ。」 みんなが、階段の上を見上げれば、そこには太陽の光を後ろから浴び、まるでスターのようなオーラを放つ人影があった。髪色は美しい黄土色で、オレンジ色の髪飾りで髪を結んでいる。不思議そうにみんなは見上げていたが、和香奈だけは「あらあら。」と口に手を当てて笑っていた。 「お…おい和香奈…。あいつ…一体何者だ…?」 葵がひっそりと和香奈に耳打ちした。すると和香奈は人影に向かって 「やっぱり昔から変わりませんね。あなたは。」 と敬語で話した。人影は前髪をサラリと撫でれば、閉じていた目を開け、大きく会釈をした。顔を上げれば、優しく微笑んだ。 「はじめまして。Melody Flowerの皆さん。私はNostalgic Tone…通称ノストのリーダー。太刀川 凛佳(たちかわりんか)。見ての通り、ここ。有木川学園の第3学年です。以後…お見知りおきを。」 ……なんだこの人。和香奈以外の4人はそう思っただろう。凛佳は階段をゆっくりと降りれば、理沙都の目の前に立った。凛佳は、少し怯え気味な理沙都の手をそっと取れば、膝を着き、手の甲に軽く唇を落とした。和香奈は相変わらずの笑顔でクスクスと笑っており、葵は「………はぁ!?」と真っ赤になりながら後ずさり、転びそうになる。芹香は顔を手で覆い、指の隙間から顔を覗かせている。楓はフラフラとよろけ、壁に手を着く。当の理沙都はあまりわからないようで、そのまま固まっている。 「あなたがリーダー…理沙都さんだね?可愛いお嬢さん…。私のバンドメンバーに紹介させてあげたいくらい、愛おしい顔立ちをしているね。」 ニコッと笑う凛佳。理沙都はようやく状況を理解したようで、キョロキョロと周りを見た。今まで普通だった顔がどんどん赤くなっていく。すると葵が「ちょ……も…もうやめとけ!!」と二人の間に入り、二人を離した。するといつもの厳つい顔で凛佳を睨めば、ベーっと舌を出す。 「おめぇがノストのリーダーだかなんだか知らねぇが…俺らに何の用だよ。何かしら用があんだろあ”あ”?」 しかし凛佳は動じず、笑顔のままで 「ああ。私はMelody Flowerの皆さんを誘いに来たんだ。デビュー前の練習という名の舞踏会にね。それと…目上の人物に対する態度も…君は学びそこねているようだ。とりあえず、ポケットから手を出したらどうだい?可愛いオオカミさん。」 と、会釈をしながら答えた。どうやらムカついたのだろう。葵は舌打ちをして凛佳を睨みつけた。 「ノストだって今度デビューするだけじゃねぇか。そんなに自信があんのかよ?」 「ああ。もちろんあるとも。まあ、君のようなガツガツとした性格の子はいないからね。あぁ…一人を除いて…といったところかな。」 頬をかく凛佳。どうやらNostalgic Toneにも、世話の焼けるメンバーがいるようだ。すると、凛佳の前に立っている葵を押しのけて、理沙都が前に出た。 「あ…あの。凛佳さん。練習って…合同練習会みたいなものですか…?」 すると凛佳はスマホを取り出し、画面を5人に見せた。そこには、ライブハウス”アンドロメダ”と書かれている。場所は学校からそこまで遠くはない。 「私達の練習場所…アンドロメダの一部屋を貸し切っている。もしよかったら、一緒に練習できたらなと思っていたんだ。どうです?お嬢さん。」 理沙都を見てウィンクをする凛佳。理沙都は「は…はい…」と戸惑い気味に頷いた。すると凛佳はニッコリ微笑み、スマホの画面を素早く切り替えれば、電話をしながら廊下を歩いていった。フラフラだった楓がハッと我にかえれば、和香奈の肩を持ち、ブンブンと揺らした。 「和香奈!!あの人何なの!?めちゃくちゃ…カッコイイじゃないの……♡」 その言葉を聞いた葵が「えぇ………。」と引き気味に楓を見つめる。理沙都は苦笑いだ。 「うわわ…楓ちゃん…揺らさないで……。凛佳さんはね、すごくカッコイイ先輩だってよく噂になってるの。私と中学が同じでね。中学の時はあんまり目立っていなかったのだけど…。時の流れって不思議ね。」 うふふと手を口に当てて笑っている和香奈。どうやら和香奈はあまり凛佳の事は気にしていないようだった。 「と…とにかく。今日はさっきのライブハウスに集合…ってことで…。」 理沙都がノートを閉じて微笑む。みんなはそれぞれの教室へ帰っていった。 「ああ。愛彩(あいさ)はそれでいいのかい?悠里(ゆうり)達にはもう相談してあるが…。」 廊下を歩きながら凛佳は誰かに電話をしていた。電話の相手は愛彩というらしい。凛佳は片手に手帳を持っており、その手帳には”デビューライブ 披露曲”と書かれており、歌詞がぎっしり書かれていた。 「大丈夫だよ、たっちー。相手も初心者…というか、結成して間もないんでしょ?おっちゃんにはウチから相談しておくわ。」 「音羽(おとは)はな…。DJとしての素質と技術はあるんだが…やる気を出してくれるかどうかが、一番の問題点といったところか…。」 「でもおっちゃんも立派なDJだし、いいラップをしてくれる。やる気があってもなくても、あの子の実力を信じた方がいいのかなってウチは思うの。まあ…とりあえず、授業始まるから切るわよ?また後でね。」 そう言い終われば、電話がそこで途切れた。凛佳は足を止め、スマホの画面を見つめていた。スマホのホーム画面には、笑顔で笑う凛佳と他のNostalgic Toneのメンバーの写真が映されていた。みんなが笑顔なのに対し、音羽は真っ赤な顔でそっぽを向きながらピースをしている。それを見た凛佳はボソッと「やっぱり…変わらないな。」と言葉を落とせば、春風の吹く廊下を歩いていった。 「とりあえず、歌詞はできたの。メロディー、芹香ちゃん、できてるっけ…?」 帰り道…というより、ライブハウスに向かうMelody Flowerのみんなは、理沙都のノートを覗き込むような形で歩いていた。芹香は「この芹香ちゃんに任せておきなさ〜い!もうできてるよ〜!」と胸を張って歩いていた。葵はドラムスティックをくるくると回している。 すると、どこからかバサバサという羽音が聞こえてくる。何かと思い、楓が上を向けば、数羽のカラスが5人の頭上を飛び回っていた。5人が不思議そうに上を見上げていると、突然数羽の中から一匹のカラスが急降下し、楓へ飛び込んだ。なんとか楓は避けたが、その勢いでステンと尻もちをついてしまった。他のカラスも急降下寸前だ。葵が楓の前に立ち「お前らあっち行け!!」とドラムスティックをブンブンと振り回す。しかしカラスは怯まなかった。葵も覚悟したようで、ガードする姿勢を取る。理沙都と和香奈、芹香もしゃがみこんでしまった。もう逃げられないと決心したとき、突然 「そのまま体制を低くして!!青髪の子も!!」 と大声で叫ぶ声が聞こえた。葵はその声の通り、しゃがみこんだ。そして、5人の上を大きな翼が通り過ぎたと思うと、次々にカラスを追い払っていく。大きな翼、綺麗な茶色の羽。そう、鷹である。カラスは蹴散らされ、山のある方向へ飛んでいってしまった。 一部始終を見ていた理沙都は、ゆっくりと立ち、ピィーーっと鳴く鷹を目で追いかけた。和香奈と芹香、楓もゆっくりと顔を上げる。さっきまでドラムスティックを振り回していた葵は、未だに顔を下げたままだ。鷹がゆっくりと人の腕に止まる。その人は長髪で、赤いジャンバーをマントのようにつけていた。楓がその女性に「あ…あの、ありがとうございます…」と話しかけると、女性はニッコリと笑い、鷹に餌をあげた。 「いやぁ、無事で何より!!カラスはね?光る物が好きで、巣に持ち帰ろうとする性質がある。多分君の髪飾りについている、この宝石が太陽の光で反射して光っていたから、狙われちゃったんだと思う。怪我はない?」 女性はそっと手を差し伸べた。楓が手を取って立ち上がる。 「ああ…はい。私、楓といいます。こっちは友達の理沙都、芹香、和香奈、葵です。えっと…あなたは…?」 「私の名前は”小鷹 楽(おだからく)”っていうんだ。高校生で、鷹匠をしてる。えーっと…もしかして君たちは有木川学園の子たちだよね?確か今度デビューライブをするとかって言ってた”Melody Flower”っていうバンドの子たち??」 その女性は鷹と戯れながら、笑顔で答えた。理沙都はびっくりしたようで、和香奈の後ろに隠れ気味だ。ようやく葵が顔を上げ、少し恥ずかしげにドラムスティックを回す。 「ああ、私さ、実は探偵の仕事も貰ってて…。ああ、小さくなったりしないから安心して?メガネもないし。それで情報は色々調べたりしてるんだ。というか、同じ学校のクラスメイトから聞いたんだよね。新しいバンドがデビューするって。」 楽はケラケラと笑いながら話した。鷹がピィと鳴く。さっきまでの威勢はなく、可愛らしい素振りで楽にすり寄る。芹香が「触ってもいいですか…!?」と興味津々に聞く。楓は髪飾りを変えれば、「そろそろ行きましょう?」とみんなに振り向いた。5人が歩きだそうとすると、「あっ、そうだそうだ」と楽が何か言いたそうな素振りを見せた。 「いやぁ、あのね?同じ学校の後輩が、えーっと…Nostalgic Toneだっけ?のベースをやってるんだよ。その子、ホントに凄いから。ナメてかかると痛い目合うと思うよ。」 と、真剣な目つきで5人を見つめた。どうやら、本当に凄い子らしい。理沙都は和香奈の後ろで、思わず唾を飲んだ。そんな凄いベーシスト…よっぽどカッコイイんだろうな。と理沙都は思った。 「まあ、普段はめちゃめちゃいい子だから、大丈夫さ。とりあえず、これ。私の連絡先だから、また何かあったら連絡してよ。いつでも助けてあげるよ!じゃあ私、家帰ってやることあるから。また会ったらよろしくな!」 そう言って、楽はくるりと背を向け、歩いていった。5人も、ライブハウスへ向かい、歩き始めた。 ライブハウス”アンドロメダ”は、行きつけのRockRiverよりも新しい感じのするライブハウスだが、少し小さいように思えた。芹香が「いっちばーん!!」とドアを開けて入れば、そこには見た事のある人影、凛佳と、他4人のメンバーがソファーに座っていた。理沙都、和香奈、楓がそれぞれ「こんにちは」と挨拶をして入れば、凛佳は席を立ち、5人の前に立った。そして笑顔で会釈する。 「ようこそ。お待ちしてましたよ。皆さん。」 学校にいるときと変わらない雰囲気に、後から入ってきた葵は少し引き気味だ。理沙都はギターケースを背負い直せば、凛佳と他のメンバーに向き合った。 「えーっと……Nostalgic Toneの皆さん…ですか?今回は練習会に招いていただいて、ありがとうございます…。」 理沙都が震える声で挨拶すると、凛佳はクスクスと笑い、 「可愛いお嬢さんだね。そんなに緊張しなくても、大丈夫だよ?」 と微笑みながら理沙都の肩をポンポンと叩く。それを見た楓はもうクラクラとしている。和香奈がなんとか支えているから立ているようだ。凛佳はソファーのある方向に手を広げた。 「さて。私達の紹介をする時のようだね。みんな、それぞれ自己紹介を頼んだよ。」 すると、紫色の髪をした女性が前に出て軽く会釈をした。プルプルと肩が震えている。 「ま……まずは私…ですね。えっと…羽咲 悠里(はざきゆうり)といいます…。ギターをやってます…。よ…よろしくお願いします…ッ!」 挨拶がおわると、悠里の肩を、横から出てきた青い長髪の女性が叩いた。その女性は小さなリボンを横髪につけている。 「あはは、悠里、緊張しすぎだよ。メロフラのみんな、こんにちは!ウチは大川 愛彩(おおかわあいさ)!ノストのドラムやってまーす!よろしくね!」 愛彩は手をフリフリと小さく振った。そして、さらにその横から緑色の髪を白いリボンで結び、小さな二つ結びをした、可愛らしい少女が立ち上がる。 「Melody Flowerの皆さん、こんにちは。Nostalgic Toneのベースをやってます。園崎 心美(そのざきここみ)といいます。よろしくお願いしますね♪」 軽くニコッと微笑む心美。その笑顔を見た楓はさっきの楽の言葉を思い出し、ハッとした。 「ナメてかかると痛い目合うと思うよ」 その言葉が楓の頭をよぎる。予想を遥かに上回る、こんな可愛らしい女の子が、凄いベーシストだなんて、信じられない。その間にも、紹介は続く。そして、最後の一人。首にヘッドホンをかけ、黒髪で短髪。いかにも気が強そうな子だ。 「あー…どーも…。ノストのDJ音羽です。よろしくっす…。」 音羽は、面倒くさそうに挨拶をした。どうやら、一人を除いてというのは、この子の事らしい。どこか、葵に似ている部分がある。そして凛佳は4人の前に立てば、大きくお辞儀をする。 「改めまして…。私がNostalgic Toneのボーカル。そしてリーダーの太刀川凛佳です。Melody Flowerの皆さん、今回はデビュー前練習会にご参加いただき、感謝します。さあ、会場へ行きましょう。ご案内します。」 そういうと、凛佳は笑顔で案内した。ライブハウス内は新しく、設備も整っていた。RockRiverほど広くはないが、その分新しい設備も備わっているようだ。会場につくと、みんなそれぞれ準備を始めた。 「ところでりーちゃん。私達、持ち歌2曲しかないけど、どうする?新曲の練習する?名前…えーっと、”シェーンフィオーレ”か。」 キーボードの点検をしながら芹香が理沙都にたずねる。楓は「シェーンフィオーレでいいと思うけどな。」とつぶやく。葵はドラムの点検をしながら「俺もそう思う。」と告げた。和香奈もチューニングをしながらコクコクと頷く。理沙都も頷いた。どうやら新曲”シェーンフィオーレ”の練習をするらしい。理沙都はギターのチューニングを始めた。しかし、いつもよりいい音が出ない。どこかおかしい。オロオロとしていると、先程のヘッドホンを首にかけた少女、音羽がテクテクとこちらへ歩いてきた。理沙都がきょとんと首をかしげれば、音羽はギターに目をやった。 「これ…弦たるんでんな。ちょっと貸してくれ。」 そう言えば、音羽はギターの弦を手際よく張っていった。楓がその腕を見れば、「早…っ」と驚く。よほど早いのだろう。弦を張り終えれば、「ん」とそっぽを向いてギターを理沙都に返した。「あ…ありがとうございます…」と理沙都がお礼を言えば、音羽はフンッと腕を組み、 「勘違いすんなよ。あたしはお前のために直したんじゃない。そのギターのために直したんだ。ギターが泣いちまうからな。」 と答える。理沙都は再びきょとんと首をかしげた。すると愛彩と凛佳がクスクスと笑った。凛佳に限っては、片手で口を抑え、片手の親指を立てている。 「やーっぱりおっちゃんはおっちゃんだよね〜。これぞツンデレってやつじゃないんですか!w」 愛彩の言葉を聞いた音羽は「ふ…ふざけたこと言うんじゃねぇ!」と言った。真っ赤な顔で言われても説得力がない。和香奈も遠くからクスクスと笑った。 「それでは…お互いに一曲ずつ発表していきましょうか♪」 心美が両手を合わせ、ニッコリと微笑んだ。ギターの練習をしていた楓の手がピタリと止まり、心美を見つめた。心美のベースを持つ手はそこまで大きくはない。様子からして、緊張しているわけでもない。ではなぜ、あの時楽は「痛い目に合う」と言ったのだろう。本当にこの子がベーシストなのか。楓はずっと疑問に思っていた。 芹香も心美を見つめたが、すぐにキーボードに向き合う。葵もドラムの調整が終わったようで、いつも通りスティックを回している。 「え…えっと…先にメロフラさん…お願いできますか…?ちょっと調整が………」 悠里がオロオロとギターの調整をしながら話す。「ったく…毎回戸惑いやがって…。」と音羽が悠里のギターの調整を手伝う。 「ああ……すまないね…。悠里は調整が苦手なんだ…。ああ…なんと悲しきお嬢様なんだ…。どれ、私も手伝ってあげるとしよう。」 キラーンとポーズを取る凛佳。カッコつけているようだが、それはそれで逆にダサく感じる。Melody Flowerの5人はそれぞれ持ち場についた。 「あ…じゃあ、新曲の練習ということで…。行きますね。」 理沙都がギターを構える。それに合わせて楓もギターを構える。葵がカウントを取れば、演奏が始まる。ノリのいい曲ではないが、これはこれで綺麗な曲だ。凛佳や悠里、愛彩はしっかりとその姿を見届けた。音羽は会場の入り口付近で腕を組み、遠目でステージを見つめている。そこへ心美がベースを大事そうに抱えながら歩いてきた。音羽の横に立てば、えへ〜と微笑む。音羽はチラリと心美を見るが、すぐに目を閉じた。 「ねぇ、音羽さん。どうしてそんな素振りを見せているんですか?」 心美がリボンで結んでいた髪をパッと解く。美しい緑色の髪が、ライトを反射し、さらに美しく映し出される。 「………お前には関係ないだろ。」 音羽は目を閉じたままだ。頭を豪快にかく。 「ノストが嫌いになったんですか?まだ始まったばかりじゃないですか。ここみは、音羽さんのDJ、とってもカッコイイと思いますよ。だって、すごく生き生きとされていますし。」 微笑みかける心美。音羽は片目を開け、心美を睨む。 「あたしは純粋に、機材に触れたかっただけ。バンドをしたいだなんて、言ってない。ここにいる理由も………。」 すると心美はクスクスと笑いだした。音羽はさらに機嫌を悪くし、「何がおかしいんだよ」と唸る。 「音羽さん、前に自分で言ってたじゃないですか。バンドをしようって誘ってくれた時の凛佳さんの言葉、覚えていないのですか?」 音羽はハッとした。バンドなんてやらない。と言って、飛び出した時の、凛佳の顔。雨に打たれ、びしょ濡れになりながら走ったあの日。あの日、凛佳が自分に必死に呼びかける姿が、頭に浮かぶ。 『あなたがいないと、このバンドは……Nostalgic Toneは…成り立たない……ッ!!!』 『浅見さんっ…お願いだから……!!!!』 自分の名前を呼ぶ声。今とは比べ物にならないくらい、弱気だった凛佳の姿。あたしがいないと、支えられないって思ったんだっけ。なんで忘れてたんだろう。音羽がはぁとため息をつけば、組んでいた腕を解き、心美を見た。 「…やっぱあたしは、あいつの側にいてやらねぇとな。」 Melody Flowerの演奏が終わり、芹香が「ノストのみなさーん!次お願いしまーす!」と大きく手を振る、心美は髪を結び直せば手を合わせ、横目で音羽を見ながらニッコリと微笑んで手を振り返す。 「それでこそ音羽さんですよ。ツンデレっていうのはよくわかりませんが♪」 「お前は知らなくていい言葉さ。」 音羽はフッと笑えば、ヘッドホンを付けながらスタスタとステージへ歩いていった。それを後ろから心美が追いかけた。 「それでは…我々の代表曲。聞いてくれ。”Rain the move”…」 凛佳が曲名を言えば、心美のベースが唸った。心美の外見からは予想できないほどの音色が激しく踊る。同じベーシストの和香奈も圧巻され、口が開きっぱなしだ。そこから悠里のギターが後を追うように重なる。ギターの音色も鮮やかで、それを後押しするかのようにドラムが彩る。凛佳の透き通る声と、音羽の力強いラップ。会場は圧巻の渦に巻き込まれた。 「ノストってすげぇんだな。和香奈、口開きっぱなしだったし。」 「っ…いや、そういう葵ちゃんも音羽さんのラップにノリノリだったけど?」 「っるせぇ。」 帰り道。日もすっかり暮れ、夜のネオンの光る町並みを5人は歩いていた。デビューライブは明日だ。理沙都はもう一度、歌詞の書かれたノートを見直した。ついに明日。Melody Flowerが正式にデビューする。そう思っただけで、緊張してきた。ノートを持つ手が小刻みに震える。それを見た芹香が、理沙都の手に自分の手を添え無邪気に笑う。 「なぁに?明日だからって、緊張してるの?りーちゃん。」 「そ…そりゃぁそうでしょ…。みんなの前に立つんだよ…?みんな見てるんだよ…??」 「そんなの、言い訳にすぎねぇぞ。」 葵が頭の後ろで腕を組む。ビルの佇む道を遠目で見つめながら歩いている。 「お前の目指してるのは姉貴と姉貴のバンドを超える事なんだろ。今こんなとこでへこたれてどーすんだ。」 芹香が葵を覗き込む。それに合わせるように、理沙都も葵を見つめる。 「俺達の目指す世界は、今よりもっと高いところにある。それを超えるためには、こんなところでびびってちゃあ、何もできねぇ。」 葵が少し前に出れば、振り返って微笑む。 「安心しな。リーダーはお前。花館理沙都だ。理沙都らしくやればいい。皆それについてきてくれっから。俺も支えてやる。」 その言葉を聞いた芹香が「なぁんだ。やっぱりガオちゃんも、りーちゃんの事心配だったんだぁ。」と呟く。それが聞こえたのか、葵は「っるせ。」と言い返す。和香奈と楓もクスクスと笑っている。理沙都は再びノートを見直せば、優しく包み込むように抱きしめた。なんだか、心の内から暖められているような温もりを感じる。仲間がいるからこそ、感じられる温もりなのかもしれない。理沙都は軽く微笑めば、メンバーと共に歩いていった。 清々しい朝。理沙都は軽快に駅へと走った。駅にはすでにメンバーが集まっており、理沙都へ手を振っている。 「ついに今日だね。理沙都。大丈夫?」 駅のホームへ向かいながら、楓が理沙都へ微笑みかける。昨日のような震えはなかったものの、ノートを何回も見直す。まだ緊張しているようだ。それを見た芹香が、カバンの中から何やらカラフルなペンを取り出す。何をするのかと思っていると、芹香が理沙都の肩を持った。 「そんな緊張してたって、いいことないよ〜?寄せ書き書こうよ!緊張もほぐれるかもしれないよ〜。」 にまーっと笑う芹香。理沙都の肩に顎を乗せている。隣を歩く楓もクスクスと笑う。すると、和香奈が理沙都の肩をポンポンと叩いた。 「あ、そうだ。理沙都ちゃん、これなんだけど、今日のために作ってみたんだ〜。じゃーん!Melody Flowerオリジナルフラッグ〜!これに書こうよ!」 そう言って和香奈は小さめの旗を取り出した。スポーツ観戦に使われるような小さな旗だ。目をこらしてよく見ると、旗の模様は花をモチーフとしており、一つ一つ手描きだった。理沙都は驚き、軽く挙動不審になった。動きが面白かったのか、他の4人はケラケラと笑う。 「えっ……私以外みんな知ってるの…?この旗の存在……。」 はわわわ…と口を手で抑えている理沙都。どうやらこの旗は、サプライズで作っていたようだ。 「ちゃんと4人で作ったんだよ〜?ガオちゃんは持ち手の部分を調達してただけだけど。」 「ち…ちげぇよ!俺だってデザイン一緒に考えたじゃねぇか!(英語のフォントを決めただけだけど!!)」 必死に誤魔化そうとする葵。それを見た理沙都はクスクスと吹き出した。「やっと笑ってくれたね」と楓が微笑む。 「じゃあ、RockRiverについたら寄せ書き書こうね!」 と和香奈が旗をしまった。芹香もカラーペンをしまう。葵はさっきからかわれたせいで、顔が赤い。5人は電車に乗り、ライブハウスへ向かった。 ライブハウスではすでにNostalgic Toneがデビューライブを行っていた。応援席は満席に近く、RockRiverの店員も大忙しであった。歓声は会場を震わせる。Nostalgic Toneの5人は、生き生きとステージで演奏をした。Melody Flowerの5人がつく頃にはNostalgic Toneのライブも終わっており、みんなは楽屋でアイスを食べていたところだった。どうやら、ファンの方がくれたらしい。美味しそうにストロベリーアイスを頬張る悠里と心美。音羽は隅っこでちびちびとチョコアイスを食べる。愛彩がそれに気づけば、「そんなちびちび食べてると溶けるよ〜?」と笑いながらシャーベットアイスを食べていった。 和香奈がフラッグを出せば、それぞれ寄せ書きを書いていった。全員が寄せ書きを書き終わる頃には会場の点検も終わっており、着替えも済ませてあった。衣装にはそれぞれ、花を連想させる装飾が施してあった。理沙都曰く、理沙都の桃色は花の花弁、芹香の緑色は木や花の葉、和香奈の茶色は木の幹や枝、楓の赤色は太陽の温かい日差し、葵の青色は清々しく広がる大空をイメージした色らしい。 「次!Melody Flowerの皆さん、よろしくお願いします!」 RockRiverのスタッフ、智美の声が聞こえる。5人は円陣を組んだ。 「デビューライブ。頑張っていこう!」 理沙都が今まで以上の声をあげる。それに続いて他の4人も頷き、返事を返す。そして、大声で掛け声をかけた。 Nostalgic Toneに見守られ、ステージへと上がっていったMelody Flowerの5人を後押しするかのように、部屋の机には寄せ書きの書かれたフラッグが春の日差しを受けていた。 「初めて人の前で演奏。緊張するけど、頑張りましょう!私のサンダーバードも唸るわよ!by和香奈」 「俺はみんなに出会えて本当に良かった!俺達の音色、全力で奏でていこうぜ!!by AOI」 「この芹香ちゃんの辞書に、失敗という文字はないのだ〜!みんな笑顔で頑張ろ〜!by芹香」 「復帰してまだ間もないけど、今自分の持ってる全てを出し切る。みんな、頑張ろう!by楓」 「初心者だった私についてきてくれた皆に感謝しています。私自身、ここまでこれるとは思っていなかったです。Melody Flower、感動という名の花を咲かせましょう!by花館理沙都 リーダーちゃん!by芹香」 光り輝くステージへ、Melody Flowerは歩み出した。 ♪次回予告♪ 今回の担当は楓です。いやぁ…。Nostalgic Tone、いいバンドだね。私達もデビューライブ、頑張らないとだね。理沙都………え、また新しいバンド…?あ!!あの二人!!前に私のことスカウトしに来た双子じゃない!!もちろん私は断ったけど…。双子でツインボーカルと聞いたわ…。どおりで息ぴったりなわけよ……。え!?対バンライブ!?それもそのバンドと!?理沙都!あなた一体何を……!! 次回「初対決」 次回をお楽しみに!! 質問受け付けております!ぜひぜひコメントよろしくお願いします!!
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