引く訳にいかない。

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引く訳にいかない。

 鞘から引き抜いた剣が月明かりに光る。正面に構えて剣の向こうの相手を見る。知っている顔。我が師匠アルファイエル。真剣にて勝負することが修行の総決算。卒業試験だという。 「殺し合いではない。しかし本気で行くぞ」 師匠からひんやりとした青白い気が流れてくる。雰囲気が変わる。 私はこの時死を感じる。冷たい気が蛇のように絡みついてきた。 このままでは身動きできず殺される。剣を握り直し集中を高め、殺気を跳ね返した。ジリジリと間合いを詰めた。こちらから詰める。 互いに剣を正面に構えたまま。半歩、また半歩と間合いをつめる。二人の剣士には独自の攻める間合いがあり、それはつま先から一歩踏み出した位置から円形のゾーンだ。師匠はそれより広い。私はやや狭い。すこしでも踏み込める位置へ行きたい。しかし師匠の間合いが広く先手を取られてしまう。それでも構わない。一か八か後の先を取りに行く。決めてしまえば恐怖はない。 一瞬風が二人を撫でる。その時私のつま先が師匠の間合いに触れた。 師匠の切っ先が眼前から消えた。 「ーーー下から!!!いや右なぎっ」 キーーーンと金属のぶつかる音。下段フェイント右からの撃剣を受けとめると力の限り押し返して自分の間合いを作ると鋭く突きを繰り出す。 しかし狙った位置に師匠の姿がない。 「左に振れ!」声なき声が響く。反射的に左側にむけて剣を薙いだ。 月夜に再度剣のぶつかる音。両者改めて間合いをとって呼吸を整える。 正面に構える先に師匠の姿。殺気の度合いが増した気がする。 「本気だ。」総確信して、私も師匠を殺す。あの首を跳ね飛ばそうと決めた。 あの夜はとても長かった。
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