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3つの条件
近未来、この言葉を聞いて君はどんな世界を想像する?
空飛ぶ車? アンドロイド?
いやいや、街中にはそんなものはいないよ。それどころか生き物は外を歩いていない、外は危険だからね。
じゃあ、みんなどうしてるかって?
みんなカプセルに入ってるよ。
誰かに押し込まれのかって? いやいや自ら望んで入ったんだ。
カプセルに入って、仮想現実の世界にいるんだ、みんな。
そこではアバターを使って誰でも好きな姿になれる、移動だって一瞬。伝えたいことだって昔みたいな文字はいらない、念じさえすれば全て通じる、素敵な世界だろ?
他にも色々科学は進んでるよ。長年の夢だったクローン技術だったり、不老不死の技術なんかもね。物好きもいて、カタツムリに喋らせることだって出来る。虫翻訳機っていってね、虫の気持ちを人間みたいに表現するんだ。それがあまりにリアルなもんだから、アバター見て普通の人と思って喋ってたら、実はカタツムリだった、なんて事もたまにはあるらしい。信じられる?
さあ、前置きはこれくらいにしよう、今回の主人公、マイケルの登場だ。
彼は優しくて従順、仕事も正確。それでいて周りからの信頼も厚い、出来た奴だ。
ただね、最近調子が悪いんだ。
病気かって?
まあそんなところだ、いわゆる恋煩いってやつ。
毎朝見かけるチューリップのアバターの娘に恋しちゃったんだ。話した事もないその娘のことでマイケルは頭がいっぱい。仕事も手につかなくなっている。友人のボブはそれはそれは心配していたよ。
「なあマイケル、思い切って告白してみろよ」
「そんな……ボク、自分に自信が無くて」
「何言ってんだよ。お前は優しくて真面目、仕事もしっかりこなす。自信を持てって。この時代、見た目はアバターでどうにでもなるから、身分の差や国籍なんかも気にしなくていいし、何を迷ってるんだ」
「そうかな」
「もういい、俺に任せろ」
おせっかいのボブは、何と次の日チューリップの娘を連れて来たんだ、名前をエバというらしい。
「さあマイケル、想いを伝えるんだ」
マイケルは意を決した。
「あの……ボクと付き合って下さい」
するとエバは恥ずかしそうに微笑んだ。
「実は私も気になってたんです、あなたの事が」
なんと、二人は両思いだったんだ。こんな事もあるんだね、でも物事はそう簡単にはいかなかった。
「でも私があなたと付き合うには三つの条件があるの」
「いいよ、ボクどんな事でも乗り越えてみせる」
エバは微笑んだ。
「まず一つ目、死ぬまで私を愛し続ける事」
「ああ、簡単な事だよ」
「二つ目、毎朝私と散歩をすること」
「散歩が好きなんだね、ボクも好きなんだ。分かった、約束するよ」
「じゃあ最後……」
きっとマイケルも予想がついていただろう、この最後が何なのか。
この時代、アバターからは中身が分からないので、必ず付き合うときは正体を明かす仕来りしきたりになってたんだ。蓋を開けたら男だった、八十過ぎのお婆ちゃんだった、実の母さんだったなんて事も珍しくない。ここが二人が付き合うための一番の難所と言えるだろう。
「三つ目の条件、それは私の実体がなんであろうと、私を好きでいる事」
エバが念ずると、自分の胸のあたりにモニターが現れた。そこにエバのアバターを引っ剥がした姿が映る。しばらくのモザイクの後、ピタッと表示されたそれをみて、マイケルは目を丸くした。言葉を失ってしまったんだ。
「どう? 遠慮なく言って欲しいわ、無理なら無理って」
そこに表示された生き物、それは「Canis lupus familiaris」通称イヌだった。
この時代、犬翻訳が進化しており、アバターを利用すれば、少し頭の良い犬なら普通の人と同じ社会生活を送ることも可能だった。
エバは驚いたマイケルの顔を見て、がっかりした。
「さすがに無理よね、種の壁は。人とチンパンジーなら子どもも出来るし、霊長類権も認められているわ。でもヒトと犬との交配はまだ実験段階。子どもも出来ないどころか、結婚も許されない、そんな私たちじゃ……」
「いいよ」
「え?」
「それでもいい。君がなんであろうと、ボクが好きになったのは君なんだ、君のことを一生愛し続けるよ」
エバはチューリップの花びらを赤らめた。そしてマイケルに飛びついた。
「いいのね? ほんとに。嬉しい、ありがとう!」
横のボブが茶化す。
「こいつ、変わり者好きでさ。家の蟻んこにも名前つけて、子どもみたいに可愛がってるんだぜ。それに比べたら……」
「おいおい、そんな趣味わざわざこんなとこでばらさなくてもいいだろ?」
必死でボブを押さえつけるマイケルを見て、エバも微笑んだ。
「次はボクの番だ、エバ。君もボクの正体を受け入れなければならない」
え、とチューリップのアバターがしゃんとした。
「ボクからの条件、それはボクがどんな実体でもボクの事を受け入れてくれること……」
マイケルの胸にモニターが現れた。
しばらくのモザイクの後、ピタッと、一つの生物が現れた。
それを見て、エバの全花びらが凍りついた。そしてそのまましばらく動けなくなった。
「これって……」
そこに現れた生物、それは「Canis lupus familiaris」そう、通称イヌだった。
「暖かい家庭を作ろうね、エバ」
「ええ、愛しているはマイケル」
二人はその後も幸せに暮らしましたとさ。
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