ベクトル

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 世界が狂っている。  そんな始まり方の小説。  現実は小説より奇なりとは言うけれど。  確かにそうなのかもしれない。ひしひしと、感じる。  誰もが不安を抱く世界になった。それが現状。  誰もが理解している世界。  だとういうのに。  全ての人間が同じベクトルの上に、立っていない。  それ自体は仕方のないことなのかもしれない。生い立ちが違えば、立つ場所もまた違うのだから。  しかしながら。  世界は狂っている。  別のベクトルの上に立つ人間が、別のベクトルの人間へと攻撃をする。  誰もが手を取り合い乗り越えよう。その中で。  己こそ第一。理解できる。  そこではない。  攻撃の理由は。  不安。  誰かを攻撃していないと払拭出来ない。巨大な不安。  攻撃をしていれば。自分が上なのだと思い込めば。  安心できる。  攻撃されている人間のことなど。違うベクトル上にいる人間のことなど。考えなければ。  何をしても許される。  そんな勘違いが。いずれ歪を生み出す。  違うベクトルの上にいても。同じ人間。等しく攻撃性を持っている。  拳を出せば。拳を出される。  出さないのは。己の居場所を守るため。  単純に。簡単に。  子供のような。純粋な心で。  思えばただ。みんな。  自分たちを守りたいだけなのに。  負の感情が。世界を飲み込んでいく。  負の感情に打ち勝とうと。  闘うことすら諦める。  だからきっと。必要なのだ。  再び立ち上がり。拳を向けるべき相手に向けるようになるには。  必要なのだ。  笑顔と。  「ありがとう」
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