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長年付き合っていた彼氏と別れた。高校の時に告白して、OKしてくれたのが始まりだった。俺はゲイ、彼氏はノンケで、告白を受け入れてくれるどころか気持ち悪がられて噂を広められるのがオチだと思っていたから、当時はめちゃめちゃ驚いたし、何か裏があるのではないか、としばらく疑っていたことを覚えている。当然、裏なんてものはなく、彼氏はただのいい人であったけれども。それくらい、当時の俺にとっては奇跡的なものだったんだ。
──でも、嬉しい、好きだ。そういう純粋な気持ちを抱いていた期間はそう長くはなかった。大学を卒業すれば、親からは彼女はいないのかと聞かれ、飲み会でも彼女はいないのかと囃され、同棲しようとすれば、男性のカップルはちょっと......という風に断られることも少なくはなかった。俺は親にゲイをカミングアウトしていなかったから、帰省した時に孫の話をされることもあった。そうやって、”普通の人”にする話をされるたびに、俺の中では不安が降り積もっていった。俺はゲイだからどうしようもないけれど、彼氏はどうなる? 俺が高校の時に告白していなければ、いい女性と付き合えて、結婚して、子供もできて──そういう、順風満帆な、いわゆる”普通”の人生を送ることが出来たんじゃないだろうか。俺が、道を踏み外させてしまったんじゃないだろうか。本来なら普通の人生を送るはずだった彼氏の人生を、歪めてしまったのは俺だったんじゃないか。当然なのだが、考えれば考えるほど思考は悪い方に転落していった。
そして、別れるという選択肢を見つけるのに時間はかからなかった。
少し性的な話をすれば、SEXの時は俺が抱かれる側だったから、別れても問題はないと思った。タチであれば、俺と別れても普通に女の子を抱くことが出来るであろうと、そう思った。俺は俺で、適当なバーとかで男を捕まえればいい、と本気でそう思っていた。
彼氏の人生をこれよりひどくゆがめてしまう前に、と切り出した別れ話の時の彼氏の顔は、それはもう酷い物だった。絶望、とか、悲しみ、とかそういった感じではなく、一番近い言葉を探すとしたら、絶句.......とか、虚無、とかそんな感じ。しばらくそんなような表情で固まった後、にこりと笑って「わかった」と言ってたものだから、俺は円満に別れられたことに安堵した。
.......でも、今は別れたことを心の底から後悔している。
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