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「今夜も素敵な姫の誕生ー!」
「ヒューッ!」
「ドンペリ頂きましたー!」
「ヒューッ!」
「我らが姫にぃぃ」
「かんぱーい!」
「ヒュッヒューー!」
シャンパンコール
キラキラ回る
ミラーボール
BGMはボーカロイド
浮遊する
フェロモン
スパイシーなコロンの香り
ああ……この世の天国
ホストクラブ
今夜の私は姫。
お金って、最高。
小林聡子は不夜城の若き王子達に囲まれてシャンパングラスをかかげ、雑居ビル地下一階の天国、その名も〈clubパラダイス〉にいた。
「聡子ちゃん、サンキュー!」
「ふふ、どういたしまして」
「ところで聡子ちゃん、本当に大丈夫?」
「え?」
「おかね」
ホストの琉希が聡子の耳元で囁く。
シャンパン代が、指名された自分の売掛になるのが怖いのだ。
ピンクのドンペリ三十万円。
「もう琉希ったら、心配しないで。今夜はいいの」
琉希は聡子の推しメンホスト。
「臨時ボーナスでも入った?」
「臨時ボー? あ、そうそう、臨時ボーナスよ」
「じゃあ、どんどん行っちゃっていいのかな?」
「ふふ、行っちゃって行っちゃって。パーって」
「よっしゃー! 聡子姫の為、今夜はいーっぱい、この琉希がご奉仕させていただきます!」
「ハハハ、琉希ったら。現金なんだから」
そう、この世は現金だ。
ちびちびウイスキーを飲んでいるいつもなら、指名の少ない新米ホストの琉希さえつれない態度のくせに。今夜の自分は姫扱い。ホストというのはこの辺の事に関してはとても分かり易い残酷な生き物だ。あからさまで容赦ない。それでも聡子は通うのを止められない。それは姫のお供くらいには優しくしてくれるから。
看護師の聡子の収入ではそんなチンケな飲み方でも、月に一回来れるかどうか。
でも今夜は違う。
聡子のトートバッグの中には三百万という大金が入っている。
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