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そんな昨日のやりとりを思い出しながら、真っ暗で凍えそうに寒い田舎道を、ユリはあてもなく歩き続けた。
こんな早朝でも、車の行き来はある。みんな何か行くべきところや行きたい所があるのに、今の自分と来たらそのどちらも無い。
こんな時に寄り添ってくれるような恋人もいない。
どうしようもない孤独感がユリの周りに張り付いているような気がしていた。
やがてあたりが濃い青色に明るくなり、歩き疲れたユリはようやくアパートへと戻った。
FF式のストーブをオンにする。
瞬間点火を謳い文句にしていたストーブが、すぐに赤く燃え出す。
ボワっというちょっとした爆発音と、嗅ぎ慣れたストーブ点火時の匂い。
部屋が暖まり始めると、することがないユリは台所を掃除し始めた。
シンクを磨き、床を雑巾掛けする。
小さな台所は、すぐにピカピカになってしまった。
テレビを着け、朝の情報番組を数分見て消し
「ハローワークに行かなくちゃ。」
とユリは一人呟いた。
いつも化粧をしている小さな机に行き、メイクボックスを開ける。
コツコツとデパートのコスメカウンターに通って集めた黒いケースに収められた化粧道具が、場違いな所に置かれているような、よそよそしい感じに見えた。
毎朝、これらの高級化粧品で自分の顔に色をつけていくことが、唯一のユリの道楽だったのに、今は全くときめかない。
結局、ファンデーションと口紅だけ付けて出かけることにした。
本当は口紅すら面倒臭かったが、唇に色のない自分の顔は、やけにみすぼらしく見えた。
先ほど脱いだばかりのコートを再び羽織り、外に出る。
午前9時。歩き慣れた道が今日は違った表情を見せている。
しばらくは、通勤のために歩かなくていいのだ。
「なんて自由なんだろう。」
ユリは少し高揚した気持ちになりながら道を歩いた。
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