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今までは、頭の中でなんとなく一日のスケジュールを組み立てながら憂鬱に歩いていた道を、時計も見ずに歩く。
鼻歌でも歌いたい気分になりながらハローワークに着いたが、一度自動ドアをくぐると、一瞬にして明るい気持ちはどこかへ行ってしまった。
「何て暗い雰囲気なんだろう・・・」
建物の中は節電のために所々電気が消されており、元は真っ白であっったろう壁は、長年張り替えられもせず汚くくすんでいた。
黒やグレーなど、色味の無い服を着た職員に、色味のない服を着た利用者。
誰一人笑ってはいない。
それはそうか。ここは失業者の集まる場所なのだ。
だが、働いているはずの職員もなんとなく虚に見えた。
打ちのめされているユリの横を、全身鼠色の制服をきた高齢の女性清掃員がモップを持って通り過ぎる。
尻込みし、立ち尽くしているユリに、一人の女性職員が薄く笑みを浮かべながら近づいてきた。
「おはようございます。今日はいかがなさいましたか。」
周りの雰囲気に体が重くなるのを感じながらも
「えっと、求人を見たくて」
と消え入りそうな声で答える。
「では、38番の席をどうぞ。」
とラミネートされたA4版の用紙を差し出される。
奥を見ると、たくさんのデスクトップの上に番号が掲げられており、どうやら指定された番号のパソコンで求人検索をする仕組みらしい。
「初めてのご利用ですか。」
と先ほどの女性職員が問いかけてくる。
「検索の手順はこちらに書いてますが、ご説明は必要ですか?」
と、また別のA4用紙を手渡しながら聞いてくる。
「いえ、自分でやってみます。」
と、なんとか答えたユリは、敗者のような気分で38番の席へと向かった。
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