突き落とされる

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カバンを床に置き席に着く。デスクトップにデカデカと表示された38の数字を見てため息をつく。 囚人番号38。つまらないことを考えて、もう一つため息をつく。 「次にここをクリックしてください。」 不意に場違いに大きな声がして振り向くと、70歳は超えていそうな女性が若い男性職員にパソコンの手解きをされながら職を探していた。 「年齢をここに入力してくださいね。」 「就職先はご自宅から近い方がいいですか?どんな職種をご希望ですか?」 一つ一つ質問に答えながらなんとか画面を進めていく。 「年金だけじゃ足りないのかしら・・・。」 他人事ながら心配していると、幼い赤ん坊をベビーカーに乗せたユリよりも若そうな母親が横を通り過ぎる。 赤ん坊はぐずり始め、間も無く大きな声で泣き始めた。母親は気まずそうに建物を出て行った。 母親が出ていったのを見届けてから、ユリの向かいに座っているジャージ姿の若者がうるさいと言わんばかりに舌打ちをする。 「嫌な雰囲気」 ここを早く出たいと思いながらも、ゆり自身も検索を始める。 31歳  周辺地域 事務職 先ほどの老女がやっていた手順と同じように条件を入力していく。 事務職と入力したところで手がとまる。 この職種にこだわる必要があるのだろうか。 この際なんだっていいじゃないか。 ユリは職種のところの検索条件を無しにし、検索ボタンをクリックした。 看護師、美容師、保育士、営業職。 資格を持ってないか、およそ務まりそうにないものばかりが画面に映し出される。 画面をスクロールしながら絶望的な気持ちになり始めた頃、画面に検索は30分以内にという内容の赤い文章が現れた。 ユリは、この場を離れて良い口実ができ、半ばほっとしながら席を離れる。 チラッと相談コーナーを見ると、初老の男性と話をしている女性相談員と目があった。 彼女は、もうウンザリという表情を変えようともせず、その男性との会話に戻っていった。 受付で38のカードを返すと、足早に外に出て思い切り外の空気を吸い込んだ。 それでもこの入り口から負の空気が流れ出てくる気がして、小走りにその場を立ち去った。
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