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お節介
紗英との楽しい晩餐の数日後、百合はまたハローワークにいた。
このご時世、家でネットで探すこともできるのだが、ずっと家にいると自分が腐ってしまうような気がした。
スマホの小さな画面を指でスクロールしながら求人を検索し続けるより、ハローワークに出向いて、相談員と少しでも話した方が職を探しているという安心感がある。
今週は、もう3回も来ている。
ここ数日、通い慣れてしまったフロアで新着求人をチェックし終わると、ロビーの自動販売機で温かいお茶を買った。
休憩スペースのソファーに座り、小ぶりのペットボトルからすするようにお茶を飲む。
最近、紗英とあった以外はここの相談員としか会話してないな・・・。
とボーッと考えていると急に見知らぬ男性に声をかけられた。
「あんた、仕事探してるのか?」
ハローワークに来ているのだ。大体の人は職を求めてここに来るのではなかろうか。しかも、自分よりも随分年上と思われる見知らぬ男性に、なぜそんなことを打ち明けなければならないのか。
百合がしばし絶句していると
「いや、あんたさ、ちょっと心配になるような表情してるからよ。気になっちまってさ。いきなり話しかけたらびっくりしちまうよな。」
と言い訳をしてきた。
「心配?」
百合はやっと出てきた言葉を発しながら男性をまじまじと見た。
冬なのに日に焼けたような肌色、大きな体、歳は自分の父親と同じくらいだろうか。60歳前後というのが百合の予想だった。
「おう。俺はここに毎日来てんだ。そんで求人検索した後にさ、ボーッとここに来てる人たちの観察もしてるんだ。人間観察っていうのか?
ここに来る人たちはみんないい表情はしてないけど、あんたは特にひどい感じがしてよ。」
表情がひどい。
見ず知らずの人間に言われたら、ほぼ全ての人が不快に思うだろうことを言われたのに、百合は不快にはならなかった。
むしろ、ズバリとそう思われてしまう自分の今の状況が不安になった。
そして、まずいと思った瞬間に、涙が溢れ出してしまった。
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