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目の前の男性が慌てている。
「おいおい大丈夫か?何か悪いことしちまったみたいだな。ごめんよ。
一旦泣き止んでくれないか。」
恥ずかしさに居たたまれなくなったユリは、大丈夫だという印になんとか笑顔を作ろうとして、さらに酷い顔になりながら頷いた。
「ごめんなさい。私、ちょっと心に一撃を食らうような出来事があって。
大丈夫なフリをしてたんだけど、何でかな。急に泣けてきちゃって。」
泣き止もうとすればするほど、涙は止め処なく、湧水の様に溢れてきた。
しゃくり上げ、鼻水を啜っているユリに
「なあ、ちょっと喫茶店にでも行って温かいコーヒーでも飲まないか?
俺も無駄に歳食ってる訳じゃないしよ。ちょっとくらい奢ってやれるし、話も聞いてやれると思うぜ。」
と男性が言ってきた。いつもなら、男性であれ女性であれ知らない人には付いていかないユリだが、今は一刻も早くここから立ち去りたかった。
それに、温かい飲み物を飲んで自分を取り戻す必要があると思った。
素直に頷くユリを見てホッとした顔を浮かべた男性は
「よし。ケーキも食べよう。」
と付け足し、自動ドアに向かって歩き出した。
その後にユリも続く。
歳の離れた男性の後を歩くのは奇妙な気持ちだった。
幼い頃に父親の跡をついて歩いた時のような感じとでも言いたいが、田舎で育ち、外出するにはほぼ車で移動していたユリには、父親と一緒に長い距離を歩いた記憶がない。せいぜい駐車場からスーパーだとか、公園くらいの距離だろうか。
そんなことを考えていると
「すぐそこに喫茶店があるからよ。そんで、俺は山本って言うんだ。あんたは?」
と男性が聞いてきた。我に帰ったユリは
「一条ユリです。」
と答えた。
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