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勝負の方法はアレだ。
これまでも何度か経験がある。お互いの作品を、時間内にどちらがより良い方向にもっていけるかというものだ。「より良いもの」なんて、なんとも主観的で判定に困る勝負ではあるのだが、これが最終的にはいつもお互いが納得するカタチで決着がつくのだから不思議である。
「良ければ、早速始めようじゃないか」
目の前の同じ顔はそう言って、作品である球体が浮かぶ、黒い水槽を出した。
向こうのペースなのが気に喰わないが、私も続けて球体を出す。
さて、何から手をつけようかと考えていると、「前回はどうやって決着したのだったか」と、自分の球体から視線を外さないままに向こうが訊いてきた。
いやらしい奴め。どうせ覚えているくせに私に言わせるつもりなのだ。だがここで答えないと、いつまでも負けを引きずっているようでそれもまた悔しいので、私は敢えて軽く返した。
「前回はお前の勝ちだ。私の方はくすんで荒廃してしまったからな」
「……そうだったか」
それだけ言って、じっと自分の球体を見つめている。興味がないなら聞かなければよいものを。腹立たしい。
私はペースを崩されまいと、自分の球体に集中する。
永らく放っておいてしまっていたので、まずは現状を確認するところから始めなくては。それはおそらく向こうも同じであろう。我々は初めのうちに多く手を加えるが、それ以降は放任主義だ。まあ、それが良い結果にも繋がるからというのもあるが。なので、この辺りの時期から手を加えるのは逆に慎重にならなくてはいけない。それがきっかけで、一気に悪い方向に向かってしまうこともあるからだ。前回はまさにそれで失敗した。
ふむ。どうやら、それほど大きな変化は起きていないようだ。私は黒い海に浮かぶ自分の球体を見て思う。緩やかな変化を、長い時間をかけて続けている。少し気になったのは、多少奴らの数が増え過ぎだということくらいか。このままだと他のものに影響が出てしまう。
私は初手として、まずは人間を減らすことから始めようと手を伸ばした。
「悪手だな」
その声にぴくっと反応し、私は手を止める。
相変わらず自分の作品から目を離さずに向こうが続けてきた。
「どうせ、人間が増えすぎたから、病を流行らせるか天変地異を起こして単純に数を減らそうとしているのだろう?そんなやり方は思考の放棄にすぎない。それこそ人間が思いつきそうなことで、あまりいただけないな」
「……ふんっ、私だってそう思っていたところだ。いらぬ世話を焼くな。それよりも自分の方の心配をしたらどうだ」
「もちろんそのつもりだがな。あっという間に勝負が付いては暇つぶしにもならない。それに、自分と同じ姿のものがそのような悪手を打つのを見るのは、あまり気分の良いものではないのでな」
くそっ。忌々しい。
あの上から見下したような物言いが、いつも私の癇に障るのだ。
とはいえ、危ないところだったのも事実。初手を考え直さねば。私は相手の様子をちらっと窺った。未だにじっと球体を見つめたまま身動き一つ取らない。私は視線を戻し、再び考え出した。
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