深山の王

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 申し訳程度にアスファルトが塗られただけの細い山道を、車は何かを探るようにそろそろと上っている。  車上には父子。 「なんだ杉ばっかりじゃないか。」  ハンドルを握る父の顔は浮かない。  助手席に座る陽太(ようた)も、思うところは父と同じだ。  ときどき杉に紛れて一本だけ生えている、名も分からぬ広葉樹があった。始めのうちはそういう木がある度に、二人は車から降りて木肌を確認したり幹に蹴りを加えたりしたが、お目当ての昆虫がいる気配はなかった。やがて杉に囲まれた広葉樹を目にしても父は車を停めなくなった。 「いいか(よう)、クヌギかコナラを探してくれよ。カブト、クワガタはこいつらの樹液が大好きなんだ。」  今日何度目かのセリフを父は言った。  言われるまでもなく陽太は終始目を皿にして、車窓から見える木々を確認している。陽太は昨日パソコンで調べたクヌギとコナラの画像を思い浮かべながら、山道両脇に生える木々を目玉を左右に忙しなく動かして見定めるが、今のところこれらの木は見当たらなかった。
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