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道場の中に入るとまだみんな打ち合いを続けている
「そこまで」
総司と灯華が激しく打ち合っているのを見ていた斎藤一が声を上げる
「勝てると思ったんだけどな」
「今の試合は良かったぞ」
灯華に声をかけたこの男斎藤一、沖田に引けを取らない剣豪だ
「そもそも、そんなに勝ちにこだわる必要がある?」
総司が首を傾げる
灯華の目の奥がスっと光る
「今のが真剣だったら?殺し合いだったら?あたしは、守りたいものを守れないかもしれない」
なんとも言えない空気を断ち切るように灯華は言い切る
「次は勝つぞ?」
それを見て斎藤が小さく笑う
「「ありがとうございました」」
礼をして二人は帰途につく
「、、、おい、もう、勘弁してくれ」
路地に追い込まれ、男は情けを乞う
「言われてやっただけで、俺は何も知らないんだ」
その言葉を最後まで言うことなく男は絶命した
『禊ぎ』は一族を殺した者たちへの復讐ではない
依頼を受けて実行する暗殺も含まれている
最後に手を下すことを『禊ぎ』と呼ぶのだ
人間とは愚かだ
自分の利益や保身の為に簡単に人を殺す
「江戸での『禊ぎ』はここまでね」
千明は呟く
長く同じ場所に留まるのは危険だ
「千明?何してるんだ?」
路地から大通りへ出たところで聞きなれた声に呼び止められる
最悪だ
「ちょっと前の用事が長引いて、帰るところよ
歳は?また遊郭帰り?そろそろ奉公先追い出されるわよ」
「あれから行ってねぇし、それは言わない約束だろ?」
「ふふっ」
決まり悪そうな土方に千明は笑みを零すが、その表情はどこか浮かない
「何かあったのか?」
千明を見つめ土方は眉をひそめる
「え?」
「無理するなよ」
「大丈夫だって、歳は心配性ね」
そんな土方に千明は笑いかける
「日も落ちてるし、途中まだ送っていく」
「ありがとう」
他愛もない話をしているうちにいつの間にか家の近くに着いていた
「歳、またね」
千明は、笑いながら手を振る
しかし、土方が千明を見たのはこれが最後となった
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