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屋敷を出た千明は宿場町を訪れていた。
暫くはここに滞在することにしている
これからどうしようか
荷物を解きながらも、1人で部屋にいると雑念に悩んでしまう
少し風にでも当たろう
刀を腰に差し、日の暮れつつある街に千明は足を踏み出す
考え事をしながら歩いていたせいか、はたまた、今朝からどうも体の動きが鈍いのが原因か、人の気配への反応が遅れた
近いな・・・・・・
ただならぬ気配を感じ物陰に身を隠した直後、悲鳴が聞こえ、むせ返るような血の匂いがした
いくら街だとはいえ、このご時世夜の街ほど危険な所はない
最近辻斬りが出ると聞いたばかりだった
気づかれるのも時間の問題だな、面倒だとは思いながらもそっと足を踏み出す
荒い息遣いの男が、近づいてくる
ニヤリと笑ってこちらを向いた目を見た時、久々に背筋が凍るのを感じた
あれは、人じゃない、鬼だ
次の瞬間、男は一気に千明に襲いかかる
キンッと剣の交わる音がしたが、いくら千明と言えど力勝負に持ち込まれては勝ち目がない
まして相手は自分を殺しに来ている
何度か剣を交えるも、感じるのはいつもあるはずのものがない不安と、恐怖だった
どうするか、千明の中で一瞬の迷いが生じた。
力を解放するか?
駆け引きの最中で躊躇は命取りとなる。
男の振りかぶった剣を避けることができずに肩から血が流れる。
バランスを崩し、狂気に満ちたその目に捕えられた瞬間。
ーーーっ
目の前に黒い影が現れ、千明と男の間に割って入り、何のためらいもなく男の心臓を刺す。
「大丈夫か」
屈んで千明を覗き込むと、そのまま千明を抱え上げる。
「ちょっと」
突然のことに混乱する千明に暴れるなと一言諭しそのまま連れていく
薄れゆく視界の中、妙な安心感に包まれ千明は意識を手放した
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