始まりの時

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高杉達の宿屋に来て数日、包帯をとったその肩に久坂は息を呑む。 「どういうことだ?」 傷跡は残っているものの、綺麗に塞がっているではないか 「君は何者?」 吉田が千明の首筋に刀を押し当てる 「化け物とでもいえば?」 どうとでもないというように無表情で千明は答える 「こっちは真面目に質問しているんだけど」 千明の答えに怒り気味に吉田は言う。 「この事、秘密ですよ」 人の話など聞いていないように千明は妖艶な笑みを浮かべる 「君まだふざけているの」 こちらをしっかりと見据えた千明に一瞬怯んだ吉田も手に力を込める。 首筋から一筋の血が流れる 「おい、稔麿、また俺に治療させる気か?」 久坂の諭すような言葉に舌打ちをしながらも剣をしまう。 「黙っといてやるよ」 それまでいつものように壁にもたれていた高杉が千明の顎を持ち上げる 「化け物にしろ何にしろ、お前、相当腕は立つな」 無言で千明は高杉を睨みつける 「強い女は嫌いじゃないぜ」 「それで?」 含みのあるような笑みを浮かべた高杉を千明は挑戦的に見上げる。 よく分かってるじゃないかと言ったように高杉はニヤリと笑う。 「俺らに手を貸せ」 いつになく真面目な顔で高杉ははっきり言う 「ちょっと、晋作」 吉田が止めにかかるが、こうなった高杉を止められないのは皆分かっている 攘夷志士達か、何らかの情報を手にしていても損はない、、、むしろ好都合だ 「いいですよ、助けていただいたお礼です、出来ることなら協力しましょう」 頷いた千明を見てこれまで見ていた桂が一言呟く 「契約成立ですね」 「下手なことしたら、斬るから」 こちらを睨む吉田からはまだ歓迎されてないようだ 「あぁ、あと敬語はいい。年もそう遠くないだろう?」 「よろしく」 千明は、ここに来て初めて少し笑顔を見せた 「ちゃんと良い顔できるじゃねーか」 クシャッと頭を撫でたその手にふと懐かしい人の姿が重なる 寂しそうな表情を浮かべた千明に、不覚にも高杉は目を奪われた。
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