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風船だらけの部屋で食卓を囲む。晩御飯はもちろん元春の手作りだ。
彼は台所から大きめのお皿を二つ、大事そうに掌に乗せて運んできた。
「わぁ! オムライスだ!」
「味の保証はできないけどな」
食べなくたってわかる。こんなの、美味しいに決まってる。
「いただきまーす!」
「召し上がれ」
ちょっと不格好なオムライスを中心からスプーンで割ると、中から真っ白なチーズがとろーりと溶け出した。上にかけられたデミグラスソースと絡み合い、芳醇な香りを立ち昇らせる。
なんでオムライスなの、なんて聞くまでもない。私の、一番好きな食べ物だ。
「美味しい! 今まで食べたオムライスの中で一番!」
「はは、大袈裟だよ」
「ほんとだもん!」
お世辞でもなんでもなく美味しかった。いい意味で、不器用な元春が作ったなんて信じられない。
私は気付いていた。
さっき元春が照れて頭を掻いた時、彼の指に巻かれていた絆創膏。そして、右手の甲の水膨れ。
きっと、たくさん練習してくれたのだろう。
私は一口一口噛み締めるようにゆっくり平らげた。
「ごちそうさまでした!」
「お粗末様。……さて」
元春がおもむろに立ち上がった。まだ何かあるのかと、期待を込めて彼を見つめる。
「おほん。えー、この部屋には合計一二〇個の風船があります。が、なんと! その中には一〇個のお宝が隠されています! ぜひ、食後の運動に探してみてください」
芝居がかった元春の説明を聞きながら、私はすでに近くの風船を手に取りひっくり返していた。
元春がシャーペンを貸してくれたので、風船を一個一個確認しながら、特に何も無ければペンを突き刺して割って、少しずつ数を減らしてゆく。
それ自体がすでに一つのアトラクションみたいで、楽しくてたまらない。
またハズレの風船にも、
「これ何?」
「ミッキーの顔」
「えー? 超下手ー!」
「失礼な。自信作だぞ」
「じゃあこっちは?」
「義弥の顔」
「やだー! 全然似てなーい!」
マジックで誰もが知る有名キャラクターの絵や、共通の友人の似顔絵が描いてあったりして、それがより一層宝探しを盛り上げてくれた。
下手くそな絵を見つけるたび、私はケラケラ笑いながらケータイのカメラを起動して、割る前に思い出を増やしてゆく。
本当に、今日のためにどれだけ労力を費やしてくれたのだろうと思うと、それだけで込み上げてくるものがあった。
「あっ! 見つけた!」
二〇個ほど割ったところで発見した、最初のお宝。
『沙羅の好きなところ第一〇位! 甘え方がかわいいところ』
風船にでかでかと書かれたそれを見て、私は顔を熱くした。こんなのがあと九個も?
やだ。嬉しいけどちょっと恥ずかしいかも。
「俺、沙羅が二人きりになるとすぐに引っ付いてくるやつ、好きだなぁ」
しかもコメント付き。照れ隠しに元春の背中をぽかぽかと叩いた後、私は再びこのロマンチックな宝探しに没頭した。
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