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約三〇分後。
二位~九位までのお宝と、おまけに歯の浮くようなセリフを受け取ったが、最後の一個だけがどうしても見つからなかった。
テーブルの下、カーテンの裏、衣装ケースの中。思いつく限り探したが、どこにも見当たらない。
「ねぇ、あと一個が見つからないよ」
「しょうがないなぁ。それじゃ、俺が見つけてあげる」
そう言って浴室に入って行った元春は、真っ赤な風船を手に戻ってきた。
なるほど。そんなところに隠していたか。
はい、と手渡された風船をひっくり返す。そこには一際丁寧な字でこう書かれていた。
『沙羅の好きなところ第一位! こんな俺を好きでいてくれるところ』
無言で風船に書かれた文字を見つめる私の肩を、元春はそっと抱き寄せ、耳元で静かに囁いた。
「売れない物書きなんかやって迷惑かけてる俺をずっと好きでいてくれて、本当にありがとう。ひもじくっても、沙羅が居てくれるだけで俺は幸せだよ」
刹那、私の涙腺は崩壊した。
安定した給料の保証がない、先の見えない生活。
そんな中で、私の存在が少しでも元春の支えになれればと、ずっと思っていた。だって、彼には思うままに生きてほしかったから。
嬉しい。
流れる涙はまるで湧き水のように溢れ続け、とどまるところを知らない。
左手で涙を拭おうと身じろぎした私の耳に、右手に持った風船からガラガラと音が聞こえた。中に、何か入っている。
「割ってみて」と、いたずらっ子のように元春が笑う。
言われた通りにペンで風船を割った後、ちぎれた赤いゴムに混じって私の手の中に残ったのは、小さなダイヤのついたネックレスだった。
「これ……」
「沙羅、前に言ってたじゃん。何か身に着けられるものが欲しいって」
覚えがあった。
半年ぐらい前。まだ彼の懐事情も知らないほど、付き合って日の浅かった頃。
近所のデパートでウィンドウショッピングをしていた時、ふと目に入ったネックレスに目を奪われて、厚かましくも、思わず口をついてしまった言葉だった。
まさか、覚えていてくれたなんて。
さほど高価な代物でないことはすぐに分かった。それにしたって、彼の収入ではそれなりに大きな買い物だったはずだ。
私はたまらず元春の胸に顔を埋めた。彼のくたびれたTシャツが、涙で濡れてゆく。
「ありがとう。すごく嬉しい」
「良かった。喜んでもらえて」
「無理させてごめんね。一生大事にするから」
元春の広くてがっしりとした背中に腕を回すと、彼もまた応えるように私を抱き締め返してくれ、私たちはそのままずっと、ずっとくっついていた。
ちょっと汗の入り混じった彼の匂いに包まれながら、私は今、世界中で一番幸せな女だと思った。
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