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彼と過ごす初めての誕生日。高まる期待を胸に、私はインターホンを鳴らす。
ドタドタと慌ただしい音がして、ドアが開いた。
「いらっしゃい沙羅。さ、上がって上がって」
右手でドアを押し開けて出てきた元春は笑顔でそう言うと、反対の手で私を家の奥へと促した。私は言われた通りに靴を脱ぎ、狭い玄関になんとか靴を揃えた後、小さくお邪魔しますと言って、彼の部屋へと続く廊下に踏み出した。
部屋の扉を開けた瞬間、私は驚きのあまり両手で口を覆った。
彼が住んでいる四畳半一間が、一週間前に遊びに来た時とは別世界と化して、私を迎えてくれたからだった。
「すごーい! これ全部、元春がやってくれたの?」
「うん。友達にアドバイスだけ貰って、飾りつけるのは一人でやった」
誇らしそうに胸を張った元春。私は今すぐにでもその胸に飛びつきたい衝動をぐっと堪え、まるでどこかのテーマパークみたく様変わりした部屋を、ぐるりと見渡してみた。
シンプルイズベストで質素極まりなかったはずの部屋中が、赤、黄、緑、青……色とりどりの風船で飾り付けられている。壁も床も天井も、全部が風船の山。どう見たって百個以上はあるだろう。
「一人で膨らませたの?」
「うん」
「どれくらいかかった?」
「二時間もかからなかったよ」
何でもないことのように言う元春。その一言に、彼の大きな愛情を感じて嬉しくなる。
さらに、壁の一番広い面に「HAPPY BRTHDAY SARA」と、これまたカラフルなマスキングテープでお祝いの言葉が書いてあった。
このちょっといかついソフトモヒカンの男性が一体どんな顔でテープを買い、一人で装飾までしていたのか想像すると、嬉しいような、ちょっとくすぐったいような不思議な気持ちになった。
だけど、
「あっ」
「ん? どうかした?」
「『I』が抜けてるよ、ほら」
「おっと、本当だ」
元春はわざとらしく驚いた顔をした後、真っ赤なテープを持ってきて、あえてそうしたように不自然に空いた「B」と「R」の間に、その場で「I」の文字を付け足した。
「やっぱり、『アイ』が無くちゃだめだよな」
言いながらさすがにくさい演出だと思ったのか、元春は照れた様に頭をぽりぽりと掻いていた。そんな普段なら笑っちゃいそうな仕草ですら、今日は五割増しで愛おしく見える。
「ありがとう。ほんとに素敵なお部屋」
「ごめんな。お金が無くてこんな、手作り感満載になっちゃって」
「ううん。嬉しい」
私は元春の肩に体重を預けてぴたりと寄り添った。彼はそんな私の頭を、まるでガラス細工にでも触れるように優しく撫でてくれた。
今日は最高の一日になる。
柔らかな体温を肌で感じながら、私はそう強く確信した。
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