何気ない嘲笑

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何気ない嘲笑

 その日、ネットカフェの店員が「今日もいつものお部屋でいいですか?」と言ってきた。たぶん、きっかけらしいきっかけといえばそんなことだったと思う。   * * * * * * *  人間関係のトラブルで仕事を失った俺に残っていたのは、余暇すらなく使う機会のなかった金だった。仕事から解放されて気が大きくなって、風俗通いとかサポとかいう風に名前を変えた援交にかまけていた自分を殴りつけたくなる。  高級ソープで本物のAV女優を抱いて、吹っ掛けてくる現役JKとさんざんヤッて、それを何度繰り返したって使いきれないほどだと思っていた金は、気が付けばそろそろ5桁を割る勢いになっていた。  家賃も払えずマンションを出た俺は、どうにか日雇いの仕事を見つけて金を稼ぐことにした。もちろん、金は貰えた。だからといって、貯えのなかった俺がそれを元手にできることなんてたかが知れている。  日中は仕事に明け暮れていられた。だが、夜はどうすればいい? ビジネスホテルに泊まるったって、安定して泊まれるわけではない。時期によっては満員なんて普通にある。  結局行きついた先はネットカフェだった。  半日いたって3000円程度で泊まっていられるし、正直俺に必要だったのは夜の間を過ごす寝床だ。滞在時間なんて半日で十分で、飲み物や、多少栄養の偏りは出るが無料で食べられるものだってある。  それに無料で使えるネット環境が整っていると来れば、別に先のことさえ考えなければ安定した生活じゃないか。この調子でちょっとずつ金を貯えれば、そこから安い部屋でも借りて就活したっていい、俺はまだ若いんだから。  そう思っていた俺の目論見は、ネットカフェ暮らしを1週間くらいした時点であっさりと破綻した。
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