切株の穴

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 外灯に照らされたその場所は、砂利が敷き詰められた駐車場になっていて、向かって左端に6メートル四方ほどの1階建てのプレハブ小屋がぽつんと建っていた。  普段の私ならば、気にもとめないはずのクリーム色のプレハブ小屋。けれども、今の私の目は、何の変哲もないそのプレハブ小屋に釘づけだ。  今いちばん欲しいものは何かと問われれば、小屋のドアをあけるための鍵だと答えるだろう。トイレも浴室も布団もいらない。用を足したくなれば、この公園のトイレに行けばいいし、体を清めたければ、人の少ない時間帯を狙ってショッピングモールに行けば済む。個室と湯の出る洗面所、それにタオルさえあれば、何とかなる。布団がなくても、ダンボールがあれば寒さはしのげる。  けれども、今の私には鍵を壊す道具も勇気も持ち合わせてはいない……。
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