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水とは違うものを体が欲しがっていた。私は今すぐにでも夏みかんを拾って、喉を潤したかった。けれども私は、その実を前に葛藤していた。
「道に落ちていても、それはその家の人のものだから、もらってはダメなの」
――小さい頃におばあちゃんから教えられた言葉を思い出したからだ。
私はそれ以来、道端に落ちている果実を見つけたときは、その家の門や玄関脇に置くようにしていた。
ところが、小学2年生のあるとき、転がっている夏みかんを見つけたものの、それをどこに置いていいのかわからないことがあった。というのも、夏みかんの木が植わっている家が3軒連なっていたからだ。
夏みかんが落ちていた場所は、家の群れとは少し離れたところだった。今思うと笑ってしまう話だが、そのときの私は、本当に困っていた。だから、すぐ近くにある交番に夏みかんを届けに急いだのだ。
お巡りさんは最初、びっくりしたような顔をしたが、事情を話すとにっこり笑って頭をなでてくれ、そしてこう言った。
「偉かったね」と。
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