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亀は小さな足を踏ん張り、二本足で立っている。右手には指示棒だろうか、左手には、バインダーのようなものを持ち、脇に抱えている。鼈甲の眼鏡をかけ、どうやらネクタイもしているようだ。柄は…ストライプか?
「着痩せ効果だよ」
僕の思考に亀が応える。
着痩せ効果って、ネクタイしか身につけていないじゃないか…と、突っ込み所はそこじゃない。
「何で、亀?」
よくわからない質問になる。
「亀先生でいい、みんなそう呼ぶ」
へえ、亀先生か。って、それで納得できるはずがない。
「さて、今日の教室を見せてもらうよ」
ずかずかと、いや、ちょこちょこと、他人の部屋へ入ってくる。
「ふむ、なかなか綺麗にしてるじゃないか」
僕の部屋はと言えば、ベッドに、机に、その上のパソコンと地球儀くらいのものだ。一人暮らしの荷物は段ボールのままクローゼットの中で、すっきりしている。
「教壇は、ここでいいかな」
亀は机を見上げる。
「ほら、早く、上へ上げてくれ」
そうか、自分では上がれないのだ。
偉そうに。
そう思いながらも、好奇心から、亀の言う通りに机の上へ置いてやる。
「で、君は何なの?」
「私は、亀・甲吉郎・羅左衛門・スーパーティーチャー・三世だ」
……は?
「スーパーティーチャー?三世?」
「だから、亀先生でよいと言っている」
亀は訝しげに応える。
「…で、亀先生は何しに来たの?」
「先生なんだから、授業に決まっているじゃないか」
亀先生は、机の上の地球儀をくるくる回しながら言う。
授業って言ったって、僕は有名○○大学まで出ているのだ。今さら何の授業をするというのか?
「社会の授業だよ」
また、僕の思考に応える。
「さあ、早く椅子に座って。とっくに始業時刻を過ぎているじゃないか」
場の雰囲気に流されて、僕は言われるままに椅子に座り、そうして亀先生の授業は始まったのだった。
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