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亀先生の授業
「じゃ、形式的に号令から、はい君」
亀先生は偉そうに指示棒で僕を指す。
まあ、付き合ってやってもいい。どうせ特にすることもないのだ。
ニートだからな。
「これから、ええと、社会だっけ?社会の勉強を始めます。礼」
こんなの小学校以来だ。
「では、君、朝ごはんに何を食べたか言いたまえ」
朝ごはん?そんなこと、社会と何の関係があるのだ。
「いいからほら、まさか忘れたのか?」
そう言われるとムッとする。
「わかったよ、ええと…」
今日の朝、何を食べたか…
そうだ、昨日買ったコンビニのおむすびが余っていたから、それを食べたか。鮭だった。それから、母さんの作った味噌汁だ。
「ふむ、じゃ、これに書いて」
亀先生がネクタイを捻ると、ストライプの一箇所が開く。そこから手を突っ込み、ロールの紙とペンを取り出した。
紙は広げると僕の机いっぱいぐらいの大きさだった。亀先生はすっかり気に入った地球儀の台に避難する。
紙の端に「おむすび」と書こうとすると亀先生はそれを指示棒で制止し、
「真ん中に」
と言う。
「真ん中に書けばいいんだね」
僕は、「おむすび(鮭)、味噌汁」と、紙の真ん中に書いた。
「大丈夫かなあ、そんなに大きく書いて。まあいい、何とでもなる」
よくわからないけど不安そうだ。
「じゃ、それらがどこから来たか書いてみよ。こう、線を引けばよい」
亀先生が「おむすび」から上に線を引く。
どこから?って、「おむすび」はコンビニか。コンビニ、と線の先に書く。
味噌汁は、と、まて、これは一本の線というわけにいかない。
とりあえず具材に分けるか。豆腐、味噌、玉ねぎ…豆腐と味噌はスーパーだ。玉ねぎは、隣のおばさんが家庭菜園で作った新玉ねぎをお裾分けしてくれたもの。線を引いて、「隣の家」と書く。
ペンを置こうとすると、
「そこまでか?」
亀先生が聞く。
そこまでって?
そうか、コンビニやスーパーの前も書けと言うのか。
そう考えると急に紙が狭くなる。
もうすでに半分ほどうまっているというのに。
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