3 小さな綻び

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驚いた。どういう風の吹き回しだろう。だが、助かる。うさぎを診てくれる病院は滅多にないので、車で30分も掛かる所に連れて行っている。 病院に行け、と言った癖に、悟は今日もいつも通り車で出勤してしまった。知佳には足がない。うさぎを入れたキャリーバッグを抱えて、移動するのはかなり困難だ。 知佳は加賀の好意に甘えることにした。 電話を切ってから30分後、加賀は知佳の家の近くのスーパーにやってきた。家の近くだと目立つから、そこで待ってて欲しいと知佳の方から頼んだのだ。 後ろ暗いことをしていると、こんな知恵ばっかりついてしまう。 「ありがと」 相変わらず大きな加賀の車に乗り込み、知佳はお礼を言う。 「暇だったからな」 「夜勤明けでしょ? 寝なくて良かったの?」 「寧ろ夜勤明けは目が冴えちゃうタイプなんだ。昼間寝るとリズムが狂うから、今日の夜早めに寝て、バランスを取ってる」 交代制の勤務のつらさは知佳にもわかる。どうしても、海外旅行をした時の時差のようなものが出来てしまう。夜勤明けにぐっすり眠ってしまうと、夜寝られなくなる。だから無理してでも、起きてるタイプなのだろう。 「ありがと」 「病院の名前教えて」 スマホで位置情報を調べ、経路を確認してから、加賀は車を走らせた。立派なナビがあるのに…と思ったところで、はっと気づく。きっと妻が乗った時に履歴が残ることを恐れているのだろう。 「抜かりないなあ」 思わず苦笑いが出てしまう。自分にはこの慎重さと用心深さはない。 加賀は他にも自分みたいな女がいるんじゃないかと、知佳は思っている。現在進行形なのか、過去にいたのかはわからないが、とにかく不倫は初めてじゃないだろう。 それを尋ねてみたことはないけれど。
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