3 小さな綻び

2/8
前へ
/71ページ
次へ
うさぎは抱っこされるのを嫌がる。チョコも例外ではなく、普段だったら、秒殺で逃げる。なのに、おとなしく悟に抱かれているということは、相当具合が悪いのだろうか。 「チョコ、どうしたの?」 「うん。餌を全然食べなくて、今、身体を触ってみたんだけど、すごく冷えてて…。ママ、今日夕勤だったよね」 「あ、うん」 「午前中病院連れて行ってもらえないかな」 「……」 昼、加賀と会う約束をしてしまったのを思い出す。だが、優先順位がどちらかなんて明らかだ。 「ちょっといい?」 知佳は悟の腕から、チョコを受け取る。確かに体温が低い。それにお腹も張っている。ケージの中の餌は殆ど手つかずのようだし、トイレの中の糞は小さくて少ない。良くない傾向だ。 「わかったわ、朝一で連れてくから、美羽とあなたはちゃんとごはん食べて、お仕事と学校行って」 「ありがとう。やっぱり知佳は頼りになるよ」 悟に褒められて、居心地が悪くなる。褒められるようなことなんて何一つしてない妻なのに。 「ママ、お願いね」 「はいはい」 美羽と悟から託され、知佳は二つ返事をする。 二人が出て行ってから、加賀に連絡を入れた。 「どうした?」 夜勤明の加賀は、すぐに通話に出た。 「今日、会えなくなっちゃった」 「どうした?」 「うん、病院行かなきゃいけなくなっちゃって」 「病院? どこか悪いのか?」 思いがけず、真剣な加賀の声に、つい吹き出してしまう。 「違うの、私じゃなくて、飼ってるうさぎがね、調子悪いみたいで」 理由を言えば、あっさりと「わかった」で通話は終わると予想していたのだが、加賀は意外な程食いついてきた。 「うさぎ? うさぎなんて飼ってるのか」 「学校のおさがりなんだけどね。推定年齢だけど、もう8歳近いから…」 「8歳だと、うさぎなら年寄りなんだ」 「人間の年齢×10倍って言われてるからね」 「なるほど」 「だから…今日は」 会えない。そう続けようとしたのだが。 「病院、家から遠いのか?」 「は?」 「車、出してもいいけど」
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

729人が本棚に入れています
本棚に追加