3 小さな綻び

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知佳はその日は午後から勤務で、悟や美羽とはすれ違いだ。夕食だけ用意して出かけて、家に戻ったのは、深夜一時を過ぎていた。 もう悟も美羽も寝ているだろうと、そっと家に入ったら、「おかえり」と声を掛けられ、ぎょっとなった。 思い切りびくっと肩を揺らしてから顔を上げると、悟が立っていた。 「び、びっくりした。ただいま」 「幽霊でも見たような驚き方するなよ」 「ごめんなさい。いつももう寝てるから」 「いや、チョコのお礼を言いたかったから。病院連れて行ってくれてありがとう」 そのためにわざわざ待ってくれていたのか。確かに次の日の朝も知佳は遅いし、悟とは今週ずっとすれ違いだった。 「チョコ、どう?」 ふたりで窓際のケージを覗きこんだ。 「だいぶ元気になったよ」 チョコはプラスチックの床に身体を投げ出して眠っている。具合が悪い時は、うさぎは身体を丸め込む。えさも夕方自分があげたものが空になっているのを確かめて、知佳は安心する。 「週末なら僕が連れて行けたんだけど、ごめんね」 「いいわよ。別に」 「あ、タクシー代と診察費出すよ。いくらだった?」 「え」 悟から意外な申し出を受けて、固まってしまった。 「タクシー使ったろ? いつも行くとこ、電車とバス乗り継いでも不便だし」 「あ…えっと、タクシー代忘れちゃった。診察代は領収書取ってあるんだけど」 言いながらドキドキしてしまう。加賀に送迎してもらったことなど言えるわけもない。今の会話の流れは、不自然ではなかっただろうか。
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