166人が本棚に入れています
本棚に追加
_____終わらない。
パソコンに向かったままの体勢が長かったせいか、凝り固まったからだを何とか伸ばして大きく息をついた。
「終わらない……つか今何時だよ」
そのまま腕をうう~~んと伸ばしたらイスがギイっと音を立てた。時計の針は9時を過ぎた辺り。
誰もいなくなったフロアに俺の立てたイスの音が虚しく響く。
「だいたいさ~」
ギッ、ギッ、とわざと音を鳴らしてみた。
「てめーらの後始末したあとに自分の仕事を片付けてるのをしってて『定時なので帰ります』『残業はしない主義なんです』とかさ、ふざけんなっつーの」
ブツブツと呟きながら、そういえば煙草をしばらく吸っていなかったと思い出す。
「あ~~~ヤニ切れ。煙草吸おう」
立ち上がって喫煙室へと向かうことにした。
どこの部署もほとんどみんな帰っていて、残っているのはほんの数名……きっとみんな俺と同じ境遇のヤツラなんだろう、可哀相に。
廊下を進んで、喫煙室へと向かっていく。ヤニのにおいのこもるガラーンとした部屋に入った瞬間、気が緩んだ。
ベンチにどっかりと腰をかけポケットを探る。
「あー疲れた……ん?」
指先に触れた慣れない四角い感触に俺は首をひねる。
「なんだこれ。あ、マッチ」
取り出したそれを見た瞬間、さっきの出来事を思い出す。
____こういうの、シガーキスっていうんですって。
あの時比留間は何を思ってそんなことを言ったんだろう。
「しかも最後の一本じゃないし」
バッチリと合った視線は、なんていうか、こう……。そこまで考えて、俺は慌てて首を振った。ドキンとか心臓跳ねらかしてる場合じゃない。
相手は男だぞ。
最初のコメントを投稿しよう!