⋆1smoke⋆

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『わーすいません。僕、さっきのが最後だったんですよ』  そう言って空のマッチケースを開けて見せる。─余程のマッチマニアなのか、銀細工の凝った代物だ。 『そっか……残念……』 『まだ大丈夫ですよ。ほら─』 『え?』 『僕の、火点いてますからどうぞ』  そう言って軽く煙草を吸い、火を朱く灯せながら俺の方に向ける。 ─あ、そうか。 『さんきゅ』  俺より頭一つ分ほど長身の比留間が少し俯いて首を傾げ、俺は口に咥えた煙草を、その先に軽く押しつけながら息を吸い込んだ。  肺にニコチンが充満して、ホッとする。ヒリッと焼ける喉がやけに気持ち良い。 『……──っ』  煙草を離す瞬間、ちらっと見上げた比留間とばっちり目が合って、ドキリ。と心臓が跳ねた。 ─ちかっ……つか、何で!? 見てた? 『こういうの、シガーキスって言うんですって。何か、やーらしいですよね』 『キッ、キス!?』 『お互いに息を吸わないと火が点きにくいでしょう?息を交換するような行為が、間接キスみたいだからそう呼ぶらしいですよ』 『へ─へえ……』  何だこれ……ドキドキが治まらない。  比留間は背も高いし、スーツの上からしか知らない体つきは男らしくガッチリしている。  いつも柔かい雰囲気で、話し方も優しいし、会議の時などにだけ掛ける眼鏡姿も女子社員には好評だ。  男の俺から見ても、充分[ モテる ]ヤツだろうというのは想像出来る。 ─が、一瞬で射竦められたと言っても過言じゃない、その切れ長の目に…… 『先輩、これから外回りですか?』 『いや、まだ社内で仕事が残ってるけど……』 『そうですか─じゃあ』  フィルターぎりぎりまで吸った煙草を名残惜しそうに口から離し、ぎゅっと灰缶に押し付ける。 『僕、外回り後直帰なんで、コレ良かったら』  するりと俺のシャツの胸ポケットに小さなモノを落とす。 『え!?』 『お疲れさまでした』 『え──!!??』 ──最後の1本じゃなかったマッチ。  静かに閉まるドアの向こうに、俺は戸惑いとざわめく鼓動を見透かされた気がした。 まかろん→ノッキへGo☆
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