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『そういうこと。紹介した次の日に、神酒さんの事務所出入り禁止になった社員もゴマンといるぜ。俺はそんな中であの人と長年組んで仕事して来たんだ。あの人の性格や、仕事に対する姿勢は熟知してると自負してる。
──お前なら、絶対大丈夫だよ』
『はい。──頑張ります』
比留間がホッとしたように俺に笑顔を向け、俺の心臓はドクンと跳ね上がった。
──やけに饒舌にフォローしたことを、急に恥ずかしく思う程に。
『じゃ、じゃあ……この、マーキングしてある部分の補足が出来たら良いわけだよな?』
『ええ、資料にも項目としてはあるんですが、もう少し詳細が解れば助かります』
何となくまだ身体の奥で燻っている熱が再燃してしまいそうな気がして、早く仕事を終わらせてしまおうと、俺は再びパソコンに向かう。
『あ、先輩、僕の方のフォローをして下さっている間に、僕が先輩の残っている仕事手伝います。─僕が出来る範囲で、ですが』
『あぁ─じゃあ、助かる』
もちろん、比留間くらいのレベルなら出来ない仕事ではない。
─俺個人の仕事は明日でも事足りるが、新人らの残して帰った仕事が大半だったからだ。
クライアントとの関係は、仕事以前に人付き合いの部分での相性や、コミュニケーション能力に依る所も大きいから、神酒さんとはまだお互いに探り合っている関係だからこそ、今回は少し苦い想いをしただけだ。
『────っ、』
ツイ、と比留間が、俺と交代するためにパソコンを覗き込み、フワリと香る甘い体臭と、頬に触れたジャケットの肩に俺の身体がカッと熱くなる─。
(──こういうの、シガーキスって言うんですって。なんか、やーらしいですよね)
ふいに昼間の喫煙室でのやり取りが思い出されて、顔が火照る。
─シガーキスって……間接キスしたわけでもあるまいし、ましてキスしたわけでもねーし。
『先輩? 続きから入力しますから、デスク代わって貰って良いですか?』
『あ、あぁ、すまん……』
──中坊かよ……俺、かなり溜まってんのかな……てゆーか、比留間は男だし!
隣のデスクに座り、比留間から預かった資料に補足説明と、俺が個別に保管しているマル秘メモなどを移して添付する。
仕事は俺以上に出来るはずだと踏んでいる比留間だからこそ、神酒さんとの関係作りに役立つものを教えてやりたかった。
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