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 カチ、カチッ── 『─んあ?』  喫煙室にようやく来れたというのに、ライターの機嫌がすこぶる悪い。  カチッ─ 『………』  くっそー!!どいつもこいつも踏んだり蹴ったりかよ!!  心の中で絶叫する。俺の機嫌の悪さもMAX、いや、もうとっくにメーターを振り切っている。  他人の仕事の尻拭いをさせられて、ニコチン切れになっていることを自覚してから3時間。 ─もう限界だった。 『くっそ……』  思わず口からこぼれた。良かった。喫煙室は俺一人だ。  いや、一人だから困るんだよな……。 ──キイ 『あ。お疲れさまです』  その時、遠慮がちに扉が開いて、この春新入社員としてうちの部署に入って来た比留間が顔を出した。 『おう、お疲れ』  比留間は新入社員だが、新卒者ではなく転職組で、仕事はデキる方……というか、もしかしたら俺より優秀? ─そして、あろうことか俺より3つも年上だ。 『先輩、さっきは大変でしたね』  そう言って、慣れた手つきでマッチを切って煙草に火を点ける。  何とも言えないマッチ独特の薫りが煙と共に燻って、比留間が目を細める。 『ああ─もう、勘弁してくれって感じだったよ』 『ふふ……。あ、すいません』 『いや、もう笑いごとでいい』  それこそ、まだ右も左も解らないような新卒社員の研修担当が俺。そいつらの見栄と欲だらけの仕事のミスを、片っ端から修正して、謝罪に回って、怒鳴り散らして、俺が上司に怒られた。 ─今の若いもんは、褒めて伸ばすもんや。  は、あ!?   である。 『─褒めるとこもねーのに、褒められることを期待するなっつーの』 『褒めて伸ばす、ですか』 『あいつら、仕事ナメてんだよ』 『まあ、痛い目見ないと解らないことばかりでしょう。まずは就職することが今までの彼らの目標だったわけですし。就職してからその先─なんて、今はまだ想像つかないんでしょうね』 ─お前は?と聞きたかったが、比留間は俺が研修するまでもなく、第一戦での戦力となり得る人材だったし、正直入社からふた月が経った今も、俺はどこか距離感を掴めずにいた。 『あれ?そう言えば先輩、煙草どうしたんですか?』  比留間の視線が、指に挟んだままの火の点いてない煙草に注がれる。 『あ、あぁ……ライター、点かなくて。─火、貸してくんね?』
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