神の手

2/3
前へ
/3ページ
次へ
 窓からみえる空はまだまだ冬の色を漂わせている。まだ春は遠い、どんなに望んでもまだ暖かさは秘めていない、それが今の自分をあらわしてるようで、また明日は雪が降るかもしれない。今日の暖かさは幻のように束の間に過ぎないかもしれない。 「あたしだっていいたかない、だけどおなじことばっか聞かされたらそうなる。それにあたしはゲームと現実はちゃんと別にしてるよ、混同してないからさ、それは理解して」  たしかにキャラのコスプレしてここに来てるわけじゃないし、たしかに見た目は普通だし。 「はーい、泰子ちゃんはまともな一般市民ってことね」 「また何? 今度は何、何がいいたいの?」 「ううん、何でもない」  思いっきり微笑むと泰子は、慌てて目をそらした。それは、あたしに対する愛情表現なのか、それとも、何か後ろめたいことを隠しているのか……。 「あたしね、なぎさのそういうとこ、いいと思うよ、たださ、なんていうのかな、ちょっと現実逃避したがるところがあるでしょ、それが、よくいう退屈になってるんじゃないの?」 「それはよくいわれる、ただのわがままだって、だけど、それじゃ、みんなと一緒でしょ、毎日、おんなじことを繰り返して、愚痴とか噂話、悪口いってばっかり、つまんない、そういうのってバッカみたい、あたしそう思う、こういう世界ってやったもの勝ちみたいなとこあるでしょ?」 「まあね、そうなのかな、あたしなんて、このまま流れていきたい。何にも考えずに決められた通りにさ、難しい道とか、自分で探したくはないかな、面倒くさいから、決められたレールに乗っかっちゃいたい」  この中はだれもいないし、2人ぼっちで静かすぎた。だから余計、泰子の言葉よりもーー。この後そのレールは2つに別れてしまって重なることはもう二度ないのかもしれない、そう思うと、哀しさというより寂しさとかそれに似た感情があふれてきた。それは得体の知れない何かなんだろうけど。  それに心を引っ張られると、今の全部までを否定してしまいそうで。 「なぎさ、あたしはさ、なぎさみたいに考えるのは嫌い、今を否定するのは好きじゃない。だけど、それで前向きになるのはいいことだと思うよ」 「ありがとう」  そんなことで安心はする、今はーー。  二人で外に出て、新鮮な空気を吸った。 「明日もまたここで会おうね!」  なぎさは笑った。あたしはなぜかその顔を見た途端哀しくなった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加